防衛省 南西諸島へ力点 〈上〉代替施設

米海兵隊普天間飛行場と住宅地が一望できる嘉数高台(沖縄県宜野湾市)

基地の中のオキナワ

2022年版防衛白書は、国防費を増加させ、軍事力の質や量を急速に強化している中国への脅威と、核・ミサイル開発を継続する北朝鮮の動向を注視し、「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している」と指摘する。冷戦時代の北方重視から、南方へ力点をシフトしている防衛省。米海軍普天間基地の名護市辺野古への移設と同時に、南西諸島への陸上自衛隊のミサイル部隊配備を加速させている。  (亀山 昌道)

沖縄本島北部にある名護市。人口は約6万4千人で、北部の中心地となっている。東西に海岸が広がり。内陸は山に囲まれ、西側はリゾートもある市街地で、東側は農漁村地帯だ。

本島北部はヤンバル(山原)と呼ばれる森林地帯。奄美群島と同じように手つかずの豊かな自然が残され、ヤンバルクイナなどの野生生物の宝庫でもある。

東海岸に向かうと辺野古という集落近くに米海兵隊の訓練基地キャンプ・シュワブがあった。辺野古は約2千人が暮らし、美しい海岸に面する。沖合いには人魚のモデルといわれる国の天然記念物ジュゴンも姿を見せるという。

キャンプ・シュワブを抱える辺野古はかつて、米兵向けの飲食店街として奄美出身者を含め多くの人が働く歓楽街だった。

ベトナム戦争で最前線に向かう米兵たちが惜しげもなく金を使っていたため「ドルの雨が降る」と言われてにぎわった。

戦争が終わり、街を飲み歩く米兵は少ない。ネオンのともらない飲食店が並び、くすんだ看板が当時をしのばせる。

寂れていく辺野古集落そばに、米海兵隊普天間飛行場(宜野湾市)の代替施設建設が進められている。普天間飛行場は市の中心部に位置し、住宅地が飛行場をドーナツ状に取り囲む。垂直離着陸輸送機オスプレイや輸送ヘリコプター、空中給油機などが配備され、規模は基地面積約476㌶、滑走路2800㍍。占領下の土地収用令で「銃剣とブルドーザー」によって建設され、約9割を民有地が占める。

2004年8月には隣接する沖縄国際大学に大型輸送ヘリが墜落。世界一危険な飛行場ともいわれ、米兵による少女暴行事件によって返還の動きとなった。

埋め立て工事が進む辺野古集落。これまでに受け入れの見返りとして名護市など沖縄北部の周辺市町村には建設のための「アメ」として、巨費が投じられ、学校や公民館、診療所などさまざまな施設が建設された。

普天間飛行場の全面返還が発表されて27年。現地では「基地受け入れ」と「受け入れ拒否」で揺れている。

賛成派などは「景気をリードするような産業が少ない沖縄は、本土の不況風をまともに受けており、経済的に自立できているとはとても言い難い。不況脱出のため新基地建設を容認するしか道はない」と主張する。 

一方、反対派などは「住民の4人に1人が犠牲になった沖縄戦の悲惨さを聞いてきた。基地と引き換えの振興策には絶対にだまされない。これからも集会や座り込みを続け、反基地運動を広げていく」と訴える。

住民から賛否の声が上がっているが、両派とも理由の一つに「子や孫のため」を挙げる。子や孫の将来のことを考えない親はいない。それはみんな同じだから――と。

日本復帰から51年。国土面積の約0・6%しかない沖縄県内に、75%の在日米軍基地(専用施設)が集中している。 

取材先でオバァから聞いた、こんな言葉が耳から離れない。「沖縄に基地があるわけじゃない。基地の中にオキナワがあるわけさ」。

沖縄の戦争は、まだ終わっていない。