西古見砲台・観測所調査始まる

3Dレーザースキャナーを使った測定をする松井敏也・筑波大教授


蛍光X線装置で顔料測定する河﨑衣美・橿原考古学研究所主任研究員

3D計測/絵図X線顔料計測 瀬戸内町
筑波大・橿原考古学研

 国の史跡指定を待つばかりとなった「奄美大島要塞跡」。このうち、西古見砲台跡・第2観測所の3D計測と壁面に描かれた絵図(島図)の非破壊顔料分析が9日始まった。調査は、筑波大学と橿原考古学研究所の合同チームが10日まで行う。分析結果は、老朽化が進みつつある観測所の維持や補修の際のデータとして活用される。

 調査は、3Dレーザースキャナーによる内外部の測定と、蛍光X線装置による顔料検査の2種類。

 3D計測は、筑波大学(茨城県)で芸術系・保存科学を教える松井敏也教授が実施。「測定は数段階に分けて行う。(固定した3Dレーザースキャナーが自動で回転、レーザーを放射し)1回目は距離を測定する。2回目の測定で、1回目のデータの上に色を載せていく。これを複数回繰り返すことによって色を埋めていく」(松井教授)という。

 観測所内部の壁には、望遠鏡で監視にあたる際の目安となる絵図(島や岩の位置と、旧陸軍が独自に使った1周360度を3200度とした度数の表示)が描かれている。

 橿原考古学研究所(奈良県)・保存科学研究室の河﨑衣美(えみ)主任研究員は、絵図の顔料調査を行った。エネルギー分散・携帯型蛍光X線装置(EDX)で、漆喰(しっくい)で塗られたベースとなっている白地、赤色で塗られた島、輪郭や角度が書き込まれた黒の部分と色別に測定した。これにより色ごとの構成元素(材質)が特定され、修復の際に生かされるという。「1回の測定は1分くらいだが、全面を終えるのに1日半かかる」(河﨑研究員)。

 今回の調査データは、3D画像データを貼り合わせる作業や、X線測定の数値分析を行い、約1カ月で同町教委に示される予定。

 松井教授は07年、日本政府の救済チームとしてカンボジア・アンコール遺跡の「浮き彫り」の保存調査にあたっている。「保存科学というのは修復のためのものではなく、劣化が進まないように現状を〝補強〟することにある。監視所の壁や石垣も崩れないようにする技術がある」と強調した。

 同要塞跡は昨年12月、国の文化審議会から文部科学大臣への答申がなされ、今月中の国指定文化財(史跡)の指定を待つばかりとなった。西古見集落はずれの森に位置する弾薬庫・砲台跡の道路整備なども待たれるが、同町での計画はない。町教委によると、「集落や観光協会の意見を聞きながら、数年後をめどに保存・活用計画を進めていく」という。