南西諸島へ力点 〈下〉日米地位協定

緊急着陸し機体整備が行われる垂直離着陸輸送機オスプレイ(奄美空港)

民間空港に軍用機飛来

 なぜ日本に米軍が駐留し、訓練などを行うことができるのか。

 敗戦後、日本はサンフランシスコで平和条約に調印し、日米安全保障条約(安保条約)を締結した。

 第6条は「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」と定める。 

 これに基づき、日本全国の民間空港や港湾を米軍が自由に使える(全土基地方式)のである。
 米軍に対する特別待遇を定める日米地位協定。第3条は「施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる」。

 第5条は、日本国内の空港や港の使用に関し「合衆国によって、合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で運行されるものは、入港料又は着陸料を課されないで日本国の港又は飛行場に出入りすることができる」とある。

 つまり、米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイや戦闘ヘリコプターが、輸送や燃料補給、整備・点検などで、日本の民間空港などを自由に使うことができるのだ。

 国土交通省航空局によると、米軍の戦闘ヘリや輸送ヘリなどが、奄美空港に着陸した回数が2021年は43回で、福岡、長崎に次いで3番目に多かった。ほとんどが本土や沖縄などに向かう途中、給油目的で飛来したものとみられる。

 徳之島10回、喜界と沖永良部、与論はゼロだった。着陸にあたり米軍側から事前に連絡があるのが通例だが、正式な手続きもなく、着陸が公表されないケースも少なくない。エンジントラブルなどで緊急着陸した事例もある。

 奄美空港などを使用するのは、主に宜野湾市の普天間飛行場を飛び立ち、山口県岩国飛行場などを往復している輸送ヘリや軽攻撃ヘリなど。

 沖縄県基地対策課によると、普天間飛行場は第3海兵遠征軍第1海兵航空団第36海兵航空群のホームベースとなっており、ヘリコプター部隊を中心として航空機が配備されている。日米軍基地でも岩国飛行場と並ぶ有数の海兵隊航空基地。

 通信施設や整備・修理施設、部品倉庫、部隊事務所、消防署のほか福利厚生施設などがあって航空機基地として総合的に整備されている。海兵航空軍には各中隊が配備され、上陸作戦支援対地攻撃、偵察、空輸などが主な任務となっている。

 民間空港への米軍機飛来が頻発しているが、04年には、海上自衛隊鹿屋航空基地から普天間に向かっていたヘリ2機のうち、1機がエンジントラブルを理由に緊急着陸した。沖縄国際大に墜落したヘリと同様、ベトナム戦争時に開発された輸送ヘリで、老朽化が著しく以前から危険性が指摘されていた。

 08年には、奄美空港から米空軍嘉手納基地に向けて飛行中の軽飛行機が名護市のサトウキビ畑に不時着し、2人がけがをした。軽飛行機は奄美空港に着陸した際、給油を怠り、途中で燃料切れを起こしエンジンが停止したものだった。

 日米地位協定が締結されて63年。協定上、民間空港や港の使用が許可され、通告などがあった場合、拒否するのは難しいようだが、住民らの安心・安全が脅かされてはならない。米軍機飛来が繰り返される背景にも目を向けなければならない。

 奄美市の市民団体「奄美ブロック護憲平和フォーラム」の城村典文事務局長(70)は「米軍機の飛来は離島展開するための訓練の一部だろう。日常化することで、新たな軍事拠点化につながるおそれがある。これまで以上に軍事使用を注視する必要がある」と指摘している。

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 中国や北朝鮮の軍事動向などを念頭に、日米が南西諸島での演習や訓練などを活発化させている。住民の反応などを踏まえつつ、空港や港などあらゆる施設を使用している。今回の取材は巨大な象の鼻をなでただけにすぎない。だが、見えてくるのは南西諸島での「反撃能力」というものが、自衛隊だけにとどまらないということだ。太平洋戦争の教訓を生かすためにも、軍備に頼らない平和を目指したい。