南方新社『琉球列島のフクギ並木』発行

奄美群島のフクギ屋敷林も紹介している『琉球列島のフクギ並木』

人気の観光スポットとなっている大和村国直集落のフクギ並木景観

奄美のフクギ屋敷林も紹介
琉球文化で「精神・象徴的な価値」

『琉球列島のフクギ並木』が南方新社から発行された。著者は琉球大学の陳碧霞=ちぇんびしゃ=准教授。奄美群島のフクギ屋敷林も紹介しており、「暮らしの原風景」として植物の文化的価値認識の必要性を示している。

同社によると、中国の平野部で育った著者は古里とは違った沖縄の原風景に魅了されたという。沖縄の各地で3万本の毎木調査、フクギ巨木の分布調査、災害による被害状況の記録などを行い、あらゆる角度からフクギを追究。調査地を再訪するたびに伐採などが進むことから、「一人でも多くの人がフクギの価値を理解し、危機感を持つことでフクギを守ることができるかもしれないと考え、出版を決意した」としている。

第1部「フクギの利活用・保全」、第2部「フクギ巨木の分布」で構成。このうち1部の「フクギの地理的分布―文化的景観としてのフクギ屋敷林―」で、奄美群島のフクギ屋敷林を掲載。与論島、沖永良部島は沖縄に近いことから「琉球文化に強く影響されたと思われる」として、▽与論島=沖縄の集落と同様、主にフクギが屋敷林を構成している▽沖永良部島=多くの集落でフクギによって囲まれる屋敷が多数を占めている。奄美大島については西海岸沿いにある大和村と宇検村には「多くの集落でフクギが屋敷林として植栽されている」として、なかでも大和村国直集落のフクギ並木は観光客に人気の場所と取り上げている。

著者は「なぜフクギ屋敷林を守るべきなのか」について言及。まず防災面をあげる。琉球列島では防風林として広範囲に植えられているが、海面上昇、気温上昇など気候変動の影響は「これらの持続可能な管理に影響を及ぼす」として極端な気候の潜在的な増加、台風による壊滅的な被害、さらには津波を考慮すると「防風林は沿岸地域の人々の生命と財産を守る上でますます重要」と指摘する。

ところがフクギの木と人間との強い連帯感や親密さは「若い世代には受け継がれていない」ことから、①歴史的に琉球文化で非常に大きな精神的または象徴的な価値を有するとされてきた②人間社会の文化は、生物保全と生態系の回復を成功させる上で重要な要素③植物の文化的価値を認識し、それに焦点をあてることは、保全計画で強調されるべき―とまとめている。

A5判264ページ、500部発行。定価は4730円(税込み)。問い合わせは南方新社電話099・248・5455まで。