奄美大島のソテツCAS被害で提言

奄美大島でのCAS被害の現状と害虫としての特徴、今後の対策に向けた提言が報告されている日本森林技術協会発行の『森林技術』第971号

「情報共有、最新知見更新を」 『森林技術』最新号掲載
薬剤選択、認証働きかけ期待

 一般社団法人 日本森林技術協会が発行する機関誌『森林技術』の最新号(第971号)で、報告として「奄美大島における外来カイガラムシによるソテツの被害と今後へ向けての提言」が掲載されている。被害状況や有効農薬のエビデンス(根拠)・聞き取り調査などから、対策では世界各地の専門家グループと情報を共有し、最新の知見にアップデート(更新)する必要性をあげている。

 報告者は、ソテツ類の育苗を手掛け、海外の栽培者や研究者と交流を重ねている高梨裕行さん(47)。取り上げている外来カイガラムシは高い繁殖力でソテツを枯らす「アウラカスピス ヤスマツイ」(英語表記の通称はCAS〈キャス〉)。奄美大島でのCASによる被害は「国内での生息初確認」だが、2006年には門司港(福岡県北九州市)で台湾からの輸入ソテツに付着していたのが検疫により明らかになっているという。

 報告によると、CASの害虫としての特徴は▽ソテツの個体全体(根を含む)に寄生▽根への寄生では60㌢の土の深さに達する▽卵は周囲温度約24・5度において8~12日でふ化▽野外では、16日で2齢、28日で3齢(終齢)に成長した個体もある▽3齢となり、成熟したメスは100個を超える卵を産む▽ソテツ全種が寄生対象だが、特にソテツ属を好む―など。各地の被害状況ではフロリダ、台湾、グアムの海外に続き奄美大島の状況も記している。

 対策として進められている薬剤防除に関しては、国内では農薬使用は取締法で管理されており、登録農薬のみがCASへ使用可能となっている現状に言及。CASは根部にも寄生し、一般的なカイガラムシとは異なる生態を持っていることから、国内では「全く知見のない外来種の害虫対策となる」ことを指摘。ソテツへの農薬登録は、アップデートが進んでいない事情にも触れている。高梨さんは文献調査や聞き取りを重ねており、フロリダの園芸農家への聞き取りにより良好な結果が得られた農薬名もあげている。この農薬は、国内ではすでに茶に登録があるという。

 海外での被害拡大から奄美大島の状況について「今後数年で、CASによるソテツ被害は激甚化すると思われる」と危惧。高梨さんは国内での対策について、①国内の対策グループは、フロリダ、台湾の専門家グループと情報共有し、得られた知見に基づいて有効農薬選定②自治体から農林水産省へ農薬の早期認証へ働きかけ、農薬メーカーは供給体制構築③奄美大島からのソテツの出荷を有効な拡大防止策の道筋がたつまで一時停止④新規農薬の開発と天敵農薬の研究への支援⑤CASが制御不能なまでに勢力を拡大した場合に備え、ソテツの各自生地での遺伝子的保護、隔離保護―などを提言している。