血液備蓄所の島内整備を

市議に血液輸送装置の機能などを説明する大木医師(左)

市議会研修会 県病院、大木医師が講演
撤退で、供給体制脆弱に

 奄美市議会の議員研修会が29日、市役所であり、県立大島病院麻酔科部長の大木浩医師(59)が、「奄美大島の医療と輸血」を演題に講演した。大木医師は、離島医療の課題として輸血用血液の供給体制の脆弱性などを指摘。2018年4月に島内にあった血液備蓄所の撤退により、輸血用の血液を県本土から輸送するのに長時間かかるようになったほか、病院内で保管する血液の使用期限切れによる廃棄が大幅に増えたことなどから、「血液備蓄所を奄美大島に取り戻す必要がある」などと語った。

 大木医師は、血液備蓄所の撤退により、県本土に輸血用血液を発注した場合、病院到着まで平均10時間ほどかかるようになったことなどを指摘した。また、同病院などでは救急医療や緊急手術対応のため院内に血液を保管しているものの、病院間での融通ができないことなどから廃棄される血液が、備蓄所撤退前の10倍に増えたという。

 備蓄所撤退について大木医師は「病院や患者にとっていいことは何一つない。あるとすれば、備蓄所にかかる費用が削減されたことぐらい」などとし、撤退を決定した日本赤十字社の対応を批判した。

 備蓄所撤退後、同病院を中心に血液供給体制を向上させるため、JALによる緊急搬送時の手順の見直しや島内病院間の緊急融通など様々な取り組みも実施しているものの、大木医師は「効果はあるが全体量としてはわずかで焼け石に水」とし、抜本的な改善には「備蓄所の整備が絶対に必要」としている。

 地元選出の県議や国会議員らも備蓄体制の強化などを県や厚生労働省などに要請、国会などでも取り上げられたこともあるが、大木医師は「日赤は何一つ聞き入れようとはしない」とし、「離島医療の困窮を訴えるだけでは解決できる話ではない。もはや医療の問題ではなく政治の問題で、国政や制度の根幹にかかわる問題」などと、その窮状を訴えた。

 研修会ではこのほか、凍結した血液などを運ぶ際に必要となる血液搬送装置(ATR)の実物が議員らに紹介され、ドクターヘリなどに装備されていることなどが伝えられた。

 議員からは「県が中心となって備蓄所を整備することはできないか」などの質問があり、大木医師は「病院内に整備することも検討したが、日赤側が血液管理などに高いハードル設定するため、現実的には難しい」などとしている。