県議選 問われるもの

現状把握と政策提言力

 政治学者で東京大学社会科学研究所教授・宇野重規さんの著書『民主主義とは何か』には、「近代における民主主義は議会制を中心に発展しました」という一文がある。社会に存在する多様な意見や利害を、代表して議会で取り上げ議論していくことが期待されたのが政党だ。「政党は社会と議会を結びつける重要な媒介として、その存在が正当化された」とある。現在の議会での政党の役割、「結びつける」という機能を十分に果たしているだろうか。国民の声や暮らしの実態の反映よりも党利党略の方が優先されるから、国が多額の予算をつぎ込んだ政策も齟齬=そご=が生じてしまう。「物価対策など岸田さんがいろんなことを打ち出しても物価は上がり続け、生活苦は一向に改善しない」。地方議会はどうだろう。

 統一地方選にあたり日本財団が、「地方議会」をテーマに18歳意識調査を実施している。18歳、高校3年生だが、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられたことで、自らの投票によって公職の候補者を選ぶことができる。そんな18歳の投票意識、結論から言えば低調であり、地方議会の役割も浸透していない。

 主な調査結果をみてみよう。住民票がある地域での統一地方選挙の認識について。「選挙がある」という認識は約15%で、うち8割超が「投票する」という意向を示したものの、「単純推計すると実際に投票に行く若者は12%前後にとどまる計算になる」(日本財団)。

 地方議会の役割についても聞いている。地方公共団体としての意思決定、首長への提言、住民の総意を反映した意見表明、執行機関の監視といった役割について「知らなかった」が46・7%と半数近くに及び、都道府県議会や市区町村議会が「その役割を果たしているか」の問いにも2人に1人弱が「わからない」と回答している。全国的な調査だが、結果は現状を的確に表しているのではないか。いや、関心の低さは若者だけでなく全般的な傾向かもしれない。

 統一地方選の一環として奄美群島では県議選がスタートした。二つある選挙区のうち奄美市区(定数2)は前回と同じ定数通りの立候補者数となり、2回連続の無投票だ。有権者は投票によって選ぶという権利をまたもや失った。県議会、県議への関心低下により一層拍車が掛かるような気がしてならない。3人が立候補した大島郡区(定数2)は現職2人に新人1人が挑む構図で、こちらは投票により選ぶことができるものの、選挙区(10町村)の有権者に選択できる判断材料を示せているだろうか。関心が高まらなければ投票率は上昇しない。

 定例会見で記者から県議選について質問された際、県議会の役割について塩田康一知事はこう答えている。「県議のみなさんは一番地元の情報に精通されていて、それぞれの地域課題を熟知している。住民のみなさんと接する機会も多い。ナマの事実、現状を捉えて課題の発掘、県議会での提案により県政はより良くなる。地道な地元での現状把握、政策提言していただき、それを県議会で議論することを期待したい」。

 任期中、4年間の県議会での議論を振り返ってみたい。奄美群島選出の県議が地元の問題でありながら本会議での質問(代表・一般)で取り上げなかったことがある。県が瀬戸内町嘉徳海岸で計画する護岸工事だ。計画の見直しを求めて質問したのは県本土を選挙区とする「地元県議以外」ばかりだった。

 法廷闘争に発展するなど計画には賛否両論がある。仮に地元県議が計画推進の立場だったとしよう。集落住民一人ひとりの意見を丁寧に地道に拾い上げ、それに基づいて必要性の根拠を議会の場で示すことはできなかったのだろうか。また反対の立場の人々には工法の正当性を県の担当課が説明する機会を設けたり、反対側の意見も聞く「結びつき」の役割を担ったら、この問題はここまでこじれなかったのではないか。

 支持者や支援団体だけに沿うのではなく、さまざまな地域課題に正面から向き合い、現状を十分に把握した上で発揮する政策提言力。そんな県議を奄美群島の代表として送り出したい。
 (徳島一蔵)