100年前のレコード音源に再現

3年間の活動をまとめた冊子を手に沖島代表(右)と菊地主任

冊子では復元に至るまでの取り組みも丁寧に紹介した

中山音女〝幻の唄声〟よみがえる
奄美シマ唄音源研「復元は奇跡的」
活動、CD付冊子で報告

 伝説の唄者として知られる中山音女=おとじょ=(宇検村出身、1891~1970年)の〝幻の唄声〟が100年の歳月を経てリアルによみがえった。手掛けたのは奄美市名瀬の奄美シマ唄音源研究所で、いわゆる〝早回し再生〟で録られたSP盤レコードから、回転数などを修正することで本来の声や演奏、曲調を取り戻した。取り組んだ沖島基太代表と菊地明主任も「様々な偶然が重なり復元できた。奇跡的だ」と驚いている。

 再現に取り組んだのは、1929(昭和4)年に東京などで録音された中山音女名義の計28曲。音源は、宇検村教育委員会(2枚)や豊島澄雄氏が所蔵する昇曙夢=しょむ=のコレクション(14枚)から試みた。

 きっかけは2019年、米国音楽の音源分析復元作業を千葉県で行っていた「戦前ブルース音源研究所」代表の菊地主任との出会い。以前からCDを聴いて「曲が速い」「キーが高い」など違和感を覚えていた奄美三味線の沖島代表が尋ねたところ、「早回しですね」と言われて腑に落ちた。

 そこから意気投合した2人は、高音域が残る一次音源のSP盤レコードにこだわり、収集に取り掛かった。集まったレコードは菊地主任がクリーニングや修復を行い、デジタル機器などを駆使してできる限り正確な音を抽出。検証や調律を丹念に繰り返し、本来あるべき声や曲調をよみがえらせた。

 3年間の活動はCD2枚付き会報『とびら』として冊子にまとめた。菊地主任は「このようプロジェクトは日本で初めて。レコード業界が求めるような技術が(自身のルーツでもある)奄美発でできたことに意義がある。携われて良かった」と喜ぶ。

 またプロジェクトを進める上で、三味線奏者は直川智=すなおかわち=の子孫である直傳次郎氏だということも判明した。沖島代表は「シマ唄や唄遊びのあり方、必要性は集落ごとに意味が異なる。失われた文化が少しでも正しく継承できることが大切。真似る子どもたちが出てくれればありがたい」と笑顔だった。

 冊子などに関する問い合わせは、奄美三味線電話0997―53―7401まで。