運転手の傍らスモモ栽培

無農薬にこだわりスモモ栽培に取り組む溜一郎さん

上部から見渡した果樹園。段が形成され、棚田跡を実感できる

水はけ、日当たり良好 無農薬を実践
大和村・溜一郎さん

 大和村の特産果樹で初夏の味覚として知られるスモモは今月下旬から6月にかけて収穫されるが、村営スクールバスの運転手の傍ら休日を利用し栽培に取り組んでいるのが同村大棚の溜=たまり=一郎さん(60)。毛陣=けじん=地区にある果樹園は、山の斜面に階段状に形成され、稲作が行われた棚田=たなだ=跡のため水はけ、日当たりも良好で管理作業により無農薬栽培にこだわっている。

 愛知県名古屋市内でバス運転手だった溜さん。7年前、父親が亡くなり帰郷、「中学生の頃、スモモを作る父親の姿を見ていた」という果樹園を引き継いだ。

 果樹園があるのは「奥又=おくまた=」と呼ばれる山間部。大きな岩がむき出した所もある石積みは、平場から山の上部へ9段あり、棚田の跡を示している。各段に植栽されているスモモの木の数は合計80~90本。果樹園を取り囲むように覆う樹木は、防風樹の役割を果たしている。長年、車両の点検や手入れもしながら運転手をしている溜さんは機械に詳しく、移動に欠かせない農作業用モノレールも整備を徹底することで故障を防止、父親の代からの使用とは思えないスムーズさを保っている。

 専業農家とは異なり週2回ある休日を利用しての管理作業。それでも手を抜くことなく、「年中行っている」という草刈りのほか、枝切りによる剪定=せんてい=や摘果を繰り返すことで、3Lサイズの大玉の収穫ができている。「枝を低く抑えているため収穫作業は楽。だけど草刈りは大変。枝の下では腰をかがめながら刈り取っている」。引き継いだ時は「草が伸び放題で荒れ地だった」という園は、まるで庭園のように整然としている。「ここ(果樹園)に来るだけでストレスが解消される。すぐそばに河川があり、休憩時には川の水の流れる音、野鳥のさえずりを聞くことで心地よくなる。作業の疲れも吹っ飛ぶ」。

 「除草剤や害虫駆除用の薬剤を使っていないため収穫された果実の製品化率は低い。4~5割程度。でも、あくまでもスクールバス運転手が本業であり、スモモ栽培で収益を得ようとは思っていない」。スモモはジュースやジャムなど加工利用が可能なことから、生果品購入者には果皮に傷がついたもの(製品以外)などサービスで提供している。

 販売はほとんどが個販。村出身者という縁から兵庫県にある保育園関係者に収穫品を送ったところ、評判は口コミで広がり、東京や大阪など都市部だけでなく北海道からの注文も。「都会の人々は無農薬に関心を示す。製品化率は低くてもこだわりたい。栽培環境に恵まれているのか、無農薬の安心、安全に加え、『水っぽくなくスモモ特有のおいしさがある』と言ってもらえる」。

 スモモ生産は「商売ではない」として販売単価も低く設定、「購入者の喜ぶ顔を見られるだけで十分」。そんな溜さんが今年の収穫期に楽しみにしていることがある。「子どもたちが利用するスクールバスの運転手をしている関係で、校長先生をはじめとした学校の先生方と親しくさせていただいている。昨年は校区内でスモモがあまり栽培されていない小学校に3Lサイズを3㌔ずつプレゼントしたが、今年は子どもたちに収穫作業を体験させたいという学校があり、ぜひ受け入れたい」。学校との新たな関わりに溜さんは笑顔を見せた。