台風などによる船舶の欠航時はコンテナの積み下ろしができず、島内に生活物資が供給できない事態が繰り返されている(名瀬港で)
発生時の勢力の強さから米国では「スーパー台風」と呼ばれ警戒された台風2号。奄美地方接近時には暴風域を伴わないなど勢力が弱まったことで大きな被害はなかったものの、停滞するなどノロノロ台風だったこともあり海の便への影響が長期化した。生活物資の流通を担う鹿児島―奄美―沖縄を結ぶ定期航路は沖縄発の上り便が先月29日から欠航。鹿児島発の下り便は名瀬港には入港し、臨時便として折り返す(名瀬発上り便)こともあったが、今回もまた島内で供給できない乳製品など生鮮食品を中心にスーパーなどの小売店では品不足に直面した。温暖化に伴う海面水温の上昇で台風の大型化、それによる船舶の欠航の長期化は恒常的になりつつある。台風に翻弄=ほんろう=される物流への影響を改善できないのだろうか。
定期船の欠航は今回、生鮮食品などの供給だけでなく農作物の出荷にも支障が出た。特に深刻だったのは旬の果物スモモだ。タンカンなどのかんきつ類と異なり日持ちせず、鮮度が品質を左右する。JAでは大玉が好まれる青果品を島外の市場などに出荷している。上り便欠航時、JAは生産農家から持ち込まれたものを集荷し、低温貯蔵施設に保管して対応。5日から上り便が再開されたことで島外出荷が可能になったが、まとまった量が市場に出ることで値段の低下が懸念されている。
値崩れは地元市場で起きている。名瀬中央青果㈱でのスモモの入荷は5月中旬から始まった。3Lや4Lといった大玉果実は、キロあたり単価で高値では1800円で取引されることもあった。その後、単価は落ち着くようになったが、上り便欠航で島外に出荷できない事態になると買受人の購入控えが目立つようになり、単価が半値以下(平均200円も)に下がった。台風通過で上り便再開のめどが立ったことで値段は回復しているものの、入荷時点で完熟しているものは島外での販売の難しさ(熟し過ぎて腐敗果の恐れ)から安値となっている。
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定期船欠航による農作物出荷への影響は常温で保存(保管)できない青果物を中心に今後も続く。値崩れ、さらに腐敗など品質悪化で出荷できず廃棄処分となれば損失を被るのは生産農家だ。経営安定のためにもJAの低温貯蔵施設以上に規模の大きい、幅広く受け入れることができ、生鮮食品も備蓄できる冷凍・冷蔵機能を備えた施設を船舶との関連性から港湾内に整備できないだろうか。国の補助率が高い奄振事業の新規メニューに盛り込めないものか提案したい。
先月11日、知名町であった奄美群島市町村議会議員大会。採択された提出議題の一つに「生鮮食品の備蓄倉庫・コンテナヤード等整備」がある。奄美市議会が提出したもので、欠航の長期化により「島内の商店、スーパーでは生鮮食品をはじめとする生活物資の不足が深刻な問題となっている。さらには、小中学校の給食、高齢者施設の食事、医療機関の病院食に至るまで広範囲に影響が及んでいる」として生活物資の安定供給に役立つストック(貯蔵)機能の強化を求めている。
沖縄県の離島・宮古島での取り組み(冷凍冷蔵機能を有する平良港総合物流センター〈貯蔵倉庫〉)を例に、この問題の対策を訴えてきた市議会の西公郎議長は「冷凍・冷蔵機能がある備蓄倉庫を佐大熊港に整備してほしい。県を通し国への働き掛けを要望しているが、県の関心の低さを感じる」と指摘する。
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奄振法の期限切れ(今年度末)を前に、県は昨年度、奄美振興の新たな方向性を示す総合調査報告書を作成(今年3月末公表)した。この中では「奄美群島が抱える条件不利性の改善」を取り上げている。本土との格差から物資の価格及び需給の安定についても言及しており、「地元市町村等と連携して、本土等からの供給方法や島内での安定的な備蓄方法の在り方についての検討を行う」としている。条件不利性の一つとして認識しているのなら、具体的な備蓄方法まで踏み出したい。
海上輸送のコスト高など奄美群島の物流問題を、これまで県議会の場で取り上げてきた永井章義県議。開会する6月定例会では「一般質問で(備蓄倉庫整備の必要性などを)取り上げる予定」とした上で、「まずは県の意向を確認し、奄振事業の活用など、どのような形で整備していくかビジョンを明確にしたい。長期欠航時など一時的な利用となると、それ以外の通常時の活用が問われる。地元の意見も参考にしながらしっかりと内容を詰めていきたい」と語る。
生鮮食品、農作物などの低温貯蔵だけでなく、防災面で生活必需品を日頃から蓄える機能も持たせたらどうか。想定される「台湾有事」など安全保障面からの備えにも役立つ。奄美群島に整備が必要な「地域に欠かせないインフラ」とすべきだ。
(徳島一蔵)