瀬戸内町久慈 土石流被害

土石流によって全壊した広野裕介さんのマンゴーハウス(提供写真)

 

 

 

瀬戸内町久慈集落背後の山から流れ込んだ土や石は、川の地形も変えた(提供写真)

 

 

マンゴーハウス全壊
かんきつ樹木も流される
就農5年目広野さん 「諦めず継続したい」

 

 

 線状降水帯の影響による記録的な大雨で瀬戸内町久慈では集落背後の山の頂上から土石流が押し寄せ、山裾周辺にあるマンゴーハウスが全壊する被害が出た。タンカンや津之輝=つのかがやき=などのかんきつ類も植栽されていたが、根こそぎ流出、生産は不可能な状態となっている。

 町農林課によると、大雨による農作物被害調査は22日から開始。皇室献上品でブランド作物であるパッションフルーツは今月に入り収穫が始まっているが、栽培されているハウス内の浸水被害が発生したものの、ポンプを使っての排水や自然に水が引き、「集出荷に影響はない」としている。

 深刻な農業被害として確認されたのが久慈集落。3連棟882平方㍍のマンゴーハウスと、周辺の果樹園約1㌶に大きな岩を含む土砂や樹木が流れ込んだ。所有するのは広野裕介さん(37)。福井県出身の広野さんは東京で飲食店に勤務していたが、熱帯果樹に興味があり旅行で奄美大島を訪れた際、味わったタンカンに衝撃を受けたという。「こんなにおいしいミカンは初めて。自分で栽培し、お客さんに届けたい」との気持ちが強くなり、鹿児島県立農業大学校に入学。農学部果樹科で学び専門知識や技術を習得した。当時の担当教員と同科卒業生の縁から瀬戸内町に移住、久慈集落で就農し5年目だった。

 広野さんは、まずタンカンを植栽。防風対策を含む樹木の管理作業、有機肥料を用いるなど施肥にもこだわり、今年2月にタンカンを初収穫。12月には津之輝の初収穫も控えていた。町農林課の田原章貴農政係長は「とても優秀で島内の先進農家も視察に訪れるほど、高品質の果樹づくりを実践してきた。一番の有望株」と語る。今年1月に大和村であった奄美群島かんきつ振興大会では、広野さんはパネリストとして発表、取り組みが評価されたという。

 被害に遭ったマンゴーハウスは奄振事業を活用し整備した鉄骨施設。植栽2年目で来年から収穫できる見通しだった。広野さんは「久慈集落は谷あいにある関係で、山の頂上部分などの崩落により土石流が押し寄せたのではないか。川の位置が変わり、埋まるほどの土や石が流れ込んでいる」と語る。

 広野さんによると、記録的な大雨では21日朝、集落の道路が水浸しとなり住宅まで浸水。集落を流れる川が氾濫しそうになるほどの水量であふれ、広野さんは集落民と共に土のうを積もうと準備。「スコップを取りにハウスへ向かったが、その時は行けた」。土のうを積んだものの川は氾濫、住宅は床上まで浸水し「ハウスや果樹園に通じる農道は川のような状態になっていた」。水がやや引いたことから22日朝、広野さんはハウスや果樹園を確認したところ「土石流でハウスは崩れ、中は土砂で埋もれていた。果樹園は、かんきつ類やドラゴンフルーツが流され、樹木が残っているところも土砂が堆積している」。かんきつ類は今年も20㌃植栽し、さらに面積を増やそうと計画していたという。

 広野さんは「厳しい状況だが、営農を諦めたくない。続けたい。徐々にでも果樹農業を再開していきたい」と力を込めた。田原係長は「他の模範となる農家だけに継続できるよう町としても支援していきたい」と語った。