光の取り込み、風通しに工夫した「手作り」のハウスでシャインマスカットの生育に成功、100房も実った(13日、瀬戸内町古志)
初収穫に笑顔を見せる池島修さん
高品質のものは高値で販売されるなどブドウの中でも人気の高い「シャインマスカット」。ブドウは落葉果樹のため冬場の低温の確保が欠かせないが、苗木で購入したものを植栽したところ生育に成功し、瀬戸内町で初めて収穫されている。栽培技術が確立されていることから、同じつる性のパッションフルーツよりも「作りやすく、それほど手間もかからない」との見方があり、収穫期がかんきつ類と重ならないことから奄美大島内の果樹農家の中には栽培品目の一つとして導入を検討する動きも出ている。
シャインマスカットの収穫に成功したのは同町果樹部会長の池島修さん(67)。Uターン後に古志集落でタンカンや津之輝などのかんきつ類のほか、ピタヤ(ドラゴンフルーツ)、パッションフルーツなど果樹を中心に10種類の作目を栽培。「おいしく味わえ、作れるものなら何でも栽培したい」と島内の量販店からシャインマスカットの苗木2本を取り寄せて12月に植え付け、今月で栽培2年半目を迎えた。
国内では山梨県や長野県、岡山県などが代表的なブドウ産地として知られる。池島さんの栽培にあたり技術指導などで支援した県大島支庁農政普及課の松尾至身=てつみ=技術主幹によると、鹿児島県内では薩摩川内市や霧島市などでシャインマスカットが栽培されている。県内での栽培は温暖な気候のため黒系や赤系のブドウは色がぼんやりとなってしまうが、シャインマスカットのような緑色なら色を気にしなくてもよいという。
本土よりも南の離島での栽培について松尾主幹は「ブドウは落葉果樹のため冬場に寒がないと休眠できない。自発休眠覚醒に必要な7・2度以下の積算時間は、ブドウで約400時間とされている」と指摘し、これが確保できるかがポイントになる。池島さんの栽培地は大和村の福元地区や奄美市名瀬の本茶地区のような山間部の上場ではなく、集落内の下場。低温の確保が懸念されたが、今月中旬に収穫期を迎え、13日には県や町の行政機関のほか、島内の果樹農家も視察に訪れた。コストを抑制できる無加温栽培で比較した場合、県本土の栽培地より収穫が2週間以上も早いという。
「すべて手作り」という池島さんのハウス(長さ5㍍×6㍍)は、天井部分には光が内部に届くよう透明な波板ポリカーボネートを設置し、側面はビニールで覆い風通しに工夫、雨水が入り込まないように四面に張り出しを設けている。一つの苗から枝分かれしたつるが、パイプ製の棚に巻き付くようにして伸びる。「産毛のようだった」という花が開花後、種を抜くジベレリン処理などを繰り返し、実った果房には6月の1週目から袋掛けに取り組んだ。初収穫の量は100房。池島さんは「4歳の孫などが『じいじ、おいしい』と食べてくれたのが一番の喜び。シャインマスカットは栽培が軌道に乗れば、奄美の未来に希望をもたらす果物ではないか。新たな作目としての可能性に期待したい」と話す。
松尾主幹は「シャインマスカットは、そのまま皮ごと食べられ、カリッとした食感の良さもありブドウの中でも人気の商品で、高値で流通している。栽培技術が確立されているのも魅力的」とするとともに、作業について「受粉をはじめ、手作業の多さや毎年植え替えるほ場や苗の準備など煩わしい作業が緩和され、冬場は作業がほとんどない」と説明する。新たな経営の柱として導入を検討する果樹農家もおり、池島さんの栽培を起点に「奄美大島産シャインマスカット」の生産が安定するか注目されそう。
シャインマスカット 「安芸津=あきつ=21号」と「白南=はくなん=」を掛け合わせて育成された大粒で食味良好なブドウ。果皮色は黄緑色で、肉質が崩壊性で硬く、香気はマスカット香(農研機構ホームページより)