友永氏旧蔵、一村作品が寄託

友永氏旧蔵の作品を前に寄託を報告する宮崎館長(左)と上原学芸専門員

掛け軸や色紙8点
所有者、一村記念美術館に
秋の常設展で初展示

 奄美大島で晩年を過ごし、島の自然を独特の技法や色彩で描いた日本画家・田中一村の作品の掛け軸や色紙8点を、所有者が奄美市笠利町の県奄美パーク・田中一村記念美術館に寄託し、同館が3日発表した。作品は、一村と親交のあった長崎大学教授の故・友永得郎氏が旧蔵していたもので、所有する家族が寄託を申し出た。同美術館は「一村の奄美との出会い、移住時などの大事な資料になる」としている。

 寄託されたのは、昭和43年(1968年)の奄美時代の掛け軸「観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)」1点と、昭和10~30年代の千葉・奄美時代に、風景や植物を描いた水墨画の色紙7点。画集などでは既に知られた作品で、友永氏が亡くなり、保管していた家族が作品の将来を案じて同美術館に相談した。

 同美術館によると、「観世音菩薩」は一村が60歳の時の作。観音の顔は亡くなった友永夫人の顔の似せられており、一村の義理堅さが感じられるという。鬼ヘゴなどを描いた色紙の「山中(さんちゅう)の雨」と「林間夕照(りんかんせきしょう)~峠の花」(ともに昭和34年)は、シダ植物の鉢植えの作法が別紙に記されるなど、一村の繊細な人柄が見て取れるという。

 3日は同館企画展示室で寄託作品を報道陣に公開した。宮崎緑館長は「一村の目を通した奄美に接することで、地域の自然や文化などを見詰め直すきっかけにしてほしい」とあいさつ。解説した上原直哉学芸専門員は「生の一村に出会える。次世代を担う奄美の子どもたちにこそ見てもらいたい」と話した。

 8作品は、9月21日~12月19日に開催の「秋の常設展」で一般公開する。奄美では初展示となる。これらの作品の寄託で、同美術館の所蔵数は約480点となった。

 その他の色紙6点は次の通り。

 ▽千葉時代 「毒だみの花」(昭和10年代)、「早春」(同20年代)、「僻村暮色 恵良駅」(昭和30年)▽奄美時代 「クロトン」(昭和34年)、「鬼ヘゴと谷渡り」(同)