与論町長選振り返る

「もっと良い島になっていてほしい」との思いを込めて期日前投票をする与論高校の3年生たち

8年ぶり選挙戦で見えた課題
少子化対策へかじ切る 町民の想いを力に

 任期満了に伴い、3日投開票された与論町長選挙は、無所属新人で飲食店経営の田畑克夫氏(64)が2031票を得て初当選を果たした。選挙期間中は、子育て環境の充実と与論高校の存続問題を中心に、街頭演説で想いを訴え続けた。8年ぶりに行われた選挙戦を振り返り、見えてきた島の課題を考える。

 ◇進む少子化

 「27人」――。2022年に生まれた与論町に住民票をもつ赤ちゃんの数だ。
 今年5月、田畑氏は「町の将来を考えると、子どもを増やせる環境を今のうちに整える必要がある」と訴え立候補を表明した。ヨロン島観光協会長(2005~14年)や町商工会長(14~23年5月)を務めた経験から環境問題や港湾整備、若者の定住促進など町には多くの課題があると指摘。その上で「まずは人口。減っていくと町が成り立たなくなる」と強調した。

 選挙戦でも、子育て支援と与論高校の存続に向けた島留学制度の推進を中心に全集落で街頭演説を実施。「私の想いが島民に届き、島民の熱い想いが島の繁栄につながる」と繰り返し訴え、若者から高齢者まで幅広い年齢層から支持を得た。

 対する前町議会議長の髙田豊繁氏(71)は、6月に3期11年務めた議員を辞職し立候補を表明。「生活密着型政策の実現」を基本理念に、港湾整備や水道水の硬度軽減化など幅広い政策を公約に掲げた。多くの町議と有力団体から支援を受けたが、組織力を生かせなかった。

 ◇高齢化の不安

 「39%」――。与論町の65歳以上の比率を示す高齢化率の現在の数値だ。選挙戦最終日、パナウル診療所の小林真介医師が田畑氏の応援演説に立った。「国の高齢化率は現在29%。それが40%になるのが約20年後と言われている。与論の今は日本の20年後の姿。今のままでは若者がいなくなってしまう」と述べ少子化対策の重要性を呼び掛けた。

 医療においては、昨年から運用が始まった沖縄ドクターヘリについて「日中の明るい時間しか飛ばない。天候が悪い日は飛べない」と指摘。田畑氏が持つ人脈を生かし、ドクヘリ事業を含めた与論と沖縄の医療関係での進展に期待を寄せた。

 ◇港湾整備

 台風11号の影響で選挙期間中の先月30日から投票日の3日までの4日間、定期船が欠航した。

 60代の男性は「台風で船が欠航するのは仕方がないが、船の大型化に合わせて港を整備すれば抜港や条件付き運航の数は減らせるのではないか」と話す。

 近年、大型化・高層化している船舶が安全に寄港するためにも、建設から45年が経過した供利港の再整備が急がれていた。

 告示前の先月27日に開かれた政策発表会で髙田氏は「港の老朽化を考えると、デメリットよりもメリットの方がはるかに大きい」と述べた。一方、田畑氏は「新しい岸壁を建設して抜港や条件付きの回数が極端に軽減されるかは疑問」と整備に慎重な姿勢を見せた。

 港湾整備は、現職の山元宗氏が4年前の2期目スタート時から解決に向けて取り組んできた事案。町議と共に国や県へ陳情要請を行ってきたが、再整備のめどはついていない。

 多くの町民が抜港対策を求めている。新町長の動向に注目したい。
 

 ◇高校生の想い

 与論町長選挙は、19年の前回が無投票、15年の前々回は選挙権年齢引き下げ前だったため、今回初めて高校生が投票する機会を得た。

 与論高校の3年生26人のうち、投票できる18歳は12人。

 投票を済ませた女子生徒の一人は「島のことが大好きなので、戻ってきた時にもっと良い島になっていてほしい」と話した。高校卒業後は、地方創生について学ぶため九州の大学へ進学するという。

 生まれてくる子どもたちの数より、進学や就職のため島外へ出ていく子どもたちの方が多い。しかし、島立ちを控えた高校生は明るい未来しか見ていない。

 人材確保や住環境の整備など課題は多い。田畑氏が選挙戦で繰り返した「想(む)いどぅ力」の精神を発揮し、次世代が希望を持てる町づくりの実現に全力をあげてほしい。
(逆瀬川弘次)