安木屋場ソテツ群生地にも波及

奄美群島で最大規模を誇る龍郷町安木屋場のソテツ群生地

群生地のソテツでは葉の表面にも外来カイガラムシの付着(白い粉状)が確認された

国立公園 集落で管理 群島最大規模の景勝地
外来カイガラムシ被害 龍郷町、駆除作業支援へ

 龍郷町安木屋場(あんきゃば)には集落を見下ろすように、山の斜面を覆い尽くすソテツの群生地がある。国立公園第2種特別地域で観光客も訪れる景勝地だが、自生するソテツの葉に外来カイガラムシ(アウラカスピス・ヤスマツイ=英語表記の通称CAS〈キャス〉)が付着しているのが確認された。被害が拡大すると「奄美群島で最大規模」とされる圧巻の風景を失う恐れがあり、町は駆除作業の支援に乗り出す。

 群生地の面積は約15万平方㍍もある。山間部から集落に下りる道路沿いには展望所があり、全体を眺望できることから観光客などが訪れ写真を撮る様子が見られる。

 CAS被害が確認されたソテツは群生地のうち、住宅に隣接する広場近くの斜面。特徴として裏面から寄生するが、確認されたのは表面で、白い粉が降りかかったように見え、表面への寄生は多発を示すという。撮影された写真を確認した一般社団法人日本ソテツ研究会の髙梨裕行会長は「海外の専門家にも見てもらったが、CASと同定できるのではないか。生息域の拡大速度は想像以上で、自生地が壊滅する前に記録や遺伝子を残し、次世代に伝えるべく情報を残すことが必要。定点観測を含めて学術的、歴史的な記録としても意味のあることだと考えている。対策では感染株の完全伐採(葉を切るだけでは幹や根にいるCASが残ってしまう)、ピンポイントでの最低限の薬剤使用で、時間を稼ぐことは可能だと思われる」と指摘する。

 町によると、群生地がある安木屋場集落では被害が発覚した昨年にかけて県道沿いのソテツの葉の切除など対策が進められたが、今年に入り群生地周辺の畑などで新たな被害が確認されたという。則敏光副町長は「群生地での被害が拡大すると景観上非常に良くなく、現在はソテツが覆っている斜面が崩壊する懸念もある」として「ほとんどが私有地。公有地なら町が駆除作業に乗り出すが、これまでも草刈りなどの管理作業は集落が行っていることから、集落の同意の下で作業をお願いしたい。作業の経費については町で補助していきたい」と話す。

 国立公園の範囲内だが、伐採などの維持管理に必要な作業は事前に届け出れば可能という。斜面のため足場の確保が必要で、作業は集落から業者に発注する対応となりそう。こうした民有地での対策では購入が必要な薬剤(浸透移行性タイプのマツグリーン液剤2など)について町は補助を検討しており、対策が取り組みやすい環境を整えていく。
 ソテツは、稲作からサトウキビ作りを強制された薩摩藩時代や戦後の食糧難に島民を飢えから救った歴史がある。奄美大島のソテツ被害について関心を持ち、早期対策を訴えてきた内山初美さん(70)は「島民にとってソテツは単なる緑化植物ではない。恩返しのためにも奄美からソテツの風景がなくなることを避けなければならない。安木屋場の群生地の風景が残るよう、行政の支援の下で対策が前進してほしい。また、被害を与えているのは外来種であり、環境省もソテツ被害に関心を持ってもらいたい」と語った。

 メモ

 外来カイガラムシ「アウラカスピス・ヤスマツイ」 カメムシ目マルカイガラムシ科の昆虫。タイなど東南アジア原産。急速に分布を拡大し、中国南部、香港、ベトナム、シンガポール、台湾、ハワイ、フロリダなど世界各地で確認されている。多くのソテツ科植物に加害。生態は、▽1年に8世代の発生(中国)、雌成虫は1匹から100匹以上に繁殖(台湾)▽雌成虫は殻で覆われ移動できないが、雄成虫は羽を持ち飛ぶことが可能(鹿児島県発表資料より)。