緑化植物でなく「救荒作物」

龍郷町安木屋場のソテツ群生地でも外来カイガラムシ被害が確認された。拡大防止に集落は取り組む

官民挙げた対策で ソテツへの恩返し
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 「眺めが良いから多くの観光客が訪れるソテツの群生地は集落の誇り。下にはグラウンドがあるが、そこにあるガジュマルの大木も観光客に人気となっている」。龍郷町安木屋場(あんきゃば)集落の区長・阿世知正博さん(72)は語る。

 集落を見下ろすように背後に迫る山。斜面を覆い尽くすソテツの群生は麓部分まで広がる。集落の伝統とも言えるのが山の管理作業だ。群生地を二つに分けて1年交代で行っており、黄色く枯れた葉を回収したり、草の下払い作業に汗を流す。「昔は2日で終わった。今は集落民の高齢化で4~5日かけての作業となっている。重労働だが、みんなから喜ばれている景観を守るという使命感から苦にはならない」と阿世知さん。そんな集落の誇り・宝が危機を迎えようとしている。多くのソテツ科植物に加害する外来カイガラムシ(アウラカスピス・ヤスマツイ=英語表記の通称CAS〈キャス〉)被害によって。

 阿世知さんは担当の役場職員と一緒に被害状況を視察した。「麓部分のソテツ2~3列に被害(葉にCASが付着)が出ていた」。群生地はほとんどが私有地という事情から、町は駆除作業の実施を集落に求めており、作業に必要な経費は町が補助する。集落は作業に取り組む方針で、「伐採や薬剤投与といった作業を集落から業者に発注する。森林組合に依頼していくことになるのではないか。被害が拡大し群生地のソテツが枯れてしまうと現在の景観を失うだけでなく山の斜面が崩れ、下の住宅に被害が及ぶ災害の懸念もある。とにかく早く手を打ちたい。拡大を食い止めなければ」(阿世知さん)。

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 公有地だけでなく、安木屋場の群生地のような私有地(民有地)での対策を促進しようと龍郷町では支援策として購入が必要な薬剤(浸透移行性タイプのマツグリーン液剤2など)への助成に乗り出している。奄美市も民有地での防除対策を呼び掛けているが、より実行を促すためにも龍郷町の取り組みを参考にしたい。ただ壁がある。予算の確保だ。

 行政関係者から聞かれる発言に果樹・果菜類の害虫ミカンコミバエとの比較がある。「奄美群島は農業が盛んだけに、以前経験したようにミカンコミバエの大量発生で移動制限(果実などの島外出荷禁止)の対象になると作物生産に深刻な影響を与える。一方でソテツは緑化植物。被害が出たとしても農業のような産業と関係しない。島民生活に直結しない」。確かにソテツは緑化植物だ。だが、島民にとっては食糧難の時、飢えから島民を救った歴史がある「救荒作物」と言えないだろうか。

 幕末奄美の貴重な生活記録である『南島雑話』にも「凶歳、飢歳となれば蘇鉄(そてつ)を食す」との記載がある。名越左源太は「蘇鉄之事」として、「ソテツを多く植えて凶作の年に備えている」「ソテツの植え方」「育て方」、そして「食べ方」を丁寧に書いている。

 原文を読み込み、分かりやすく解説した著書『新南島雑話の世界』の中で元南日本新聞記者の名越護さんは「戦後まもなくまでは、島民にとって主食のカンショ(サツマイモ)に代わっての救荒植物として、大切に植栽された。シマウタや流行歌にも歌われる、奄美島民にとっては身近で大切な『命の植物』だ」と記述する。

 こうした歴史、島民とソテツの関わりを県や国にも伝えることができないだろうか。その役割を地元自治体が担ってほしい。官民挙げた対策を強化する後ろ盾として国・県の支援(自治体予算への補助)を引き出すためにも。CAS被害により自生地を残せなかった台湾など外国の事例とは異なる「奄美モデル」を構築したい。公有地・私有地を問わず自生地を残すことで、ソテツへの恩返しが見えてくる。
 (徳島一蔵)