奄美大島選果場

奄振事業活用のほか地元5市町村も負担して整備された奄美大島選果場。内部・外部品質の保証が可能な光センサーが設備されているものの、持ち込み量の低迷で赤字運営が続く

「果樹選果一元化」目的に整備
持ち込み量 計画下回り赤字運営続く
農家負担、行政支援の継続を ~ニュースFollow~

 ちょうど10年前の2013年1月28日、落成式が行われた施設がある。奄美市名瀬朝戸に整備された奄美大島選果場だ。11年度から2か年計画で進められた施設整備の目的はタンカンなど「奄美大島島内の果樹選果一元化」であり、当時の奄美新聞はこう伝えている。

 「共同活用する島内の5市町村代表や果樹生産者、JAあまみ大島事業本部、施工業者らが出席し、奄美果樹ブランドの確立に向けた大きな一歩となる選果場の完成を祝った」。開設までの経緯を振り返ってみよう。

 同選果場は、行政を中心とした関係機関が島内果樹振興の期待を込め、06年から選果場整備協議会を設立し計画を進めてきた。地域の枠組みを超えて奄美大島の5市町村とJAが広域連携を図り、統一基準を実施する施設を掲げた。統一基準とは「選果基準」であり、設置された品質保証が可能な光センサーを活用することで、品質が統一されたタンカンが島外などに出荷できる。

 施設整備費は約1億3800万円で、総事業費は約3億円。奄振の非公共事業で整備されたことから半分は国庫負担で賄われ、残りは農家戸数や生産量に応じ5市町村が共同負担、管理運営するJAも負担している。この経緯を振り返っても奄美大島選果場は奄振事業のほか、市町村も負担し事業費を捻出していることから「島民共有の財産」と言えないだろうか。

 決してJAだけの施設ではない。果樹を生産する農家、販売で取り扱う業者、購入する消費者を含めて「みんなの施設」として、品質のばらつきを防ぐ機能を備えた選果場を利用することで開設の目的が達成できる。

 ところが“宝の持ち腐れ”状態が続いている。450㌧の持ち込み量を想定し開設されたが、量は低迷のままだ。10日にあったJAあまみ果樹部会全体会議で公表された選果場会計の収支決算によると、持ち込み量266㌧だった22年度実績では収益を上回る費用により159万円の赤字となった。来年2月稼働する23年度計画では250㌧の持ち込み量を見込んでおり、人件費などの見直しにより費用を縮小しているものの、それでも70万円余りの赤字を算出。保守修繕費や雑費(長期前払費用)などを含めたJAの選果場会計損益では457万3千円の赤字を見積もっている。

 赤字続きから、「繰り越しの欠損金分をJA内部で補充できる財源がない」状況だ。そこで収支改善へ提案されたのが、農家に負担を求める選果料の引き上げ。新たな負担金を含めてキロあたり44・3円が提案された。負担増に農家は難色を示し、当面は「30円」設定で了承された。

 現在、奄美大島内の5市町村が足並みをそろえて行っている選果料助成。行政は助成期間を示しており、継続されないとどうなるだろう。農家の選果料負担は30円から56円と2倍近くまで膨らみ、量を出すほど経営を圧迫する。全体会議に出席した農家からは「選果を委託した場合、2割は規格外となり行政の助成対象とはならない。選果場利用を高めていくためにも規格外も助成対象にしてほしい」との意見が出た。産地をリードする農家でも規格外品割合は小さくない。

 開設の経緯から行政は管理運営するJAだけに任せるのではなく、助成の継続・拡充含めて選果場利用促進の方策を維持すべきではないか。JA共販量を上回る量が入荷している地元市場出荷分も選果場利用を義務付けるルールづくりに踏み出すべきだ。利用の呼び掛けだけでは、「信頼の証し」よりも選果料負担の回避を農家は選択するだろう。

 再び10年前へ。選果場落成式で当時の奄美市長はあいさつしている。「最新鋭の選果機械設備を兼ね備えた、まさに次世代の飛躍に役立つ施設。生産者の所得向上と足腰の強い産地づくりに寄与するものと期待したい」。

 (徳島一蔵)