与論島の「ヤーナー」風習に注目

与論島独自の風習「ヤーナー(家の名)」を調査した冨澤公子さん(15日、奄美新聞社で)

先祖崇拝、命の連鎖にも
立命館大客員研究員・冨澤さん 「ヤーナーの日」提唱

 奄美群島の長寿社会を長年にわたって研究している立命館大学衣笠総合研究機構の客員研究員、冨澤公子さん=京都市在住、徳之島町母間出身=が今月、与論島を訪問し調査を行った。子どもが生まれたら先祖から名前を頂き付ける同島独自の風習「ヤーナー(家の名)」に注目し、冨澤さんは「今でも継承されており、先祖崇拝だけでなく子どもたちには自分も受け継ぎたいという気持ちが見られ、命の連鎖にもつながっている」と語る。

 戸籍に登録する名前とは別に、先祖から頂くもので、長子の男子は父方の祖父から、女子は祖母から、二番目の子は母方からなどといったルールがあるという。「先祖の中で長寿者、人格者、みんなから頼りにされた人などの名前を付けたようだ」と冨澤さん。

 教育委員会の協力の下で冨澤さんは、与論小学校4~6年生56人を対象に「ヤーナー」に関するアンケート調査を実施した。それによると75%が「持っている」と回答。実際に使っている児童は少ないものの、「自分が大人になったら、自分の子どもにも二つ目の名前である『ヤーナー』を付けたい」と考える児童が半数以上に達した。

 世代間の意識の比較を行うため、冨澤さんは85歳以上の超高齢者と60歳代に同様の質問で、それぞれ10人にインタビュー。超高齢者からは「先祖を大事にしたいという気持ちが生じ、(ヤーナーを持つことは)とてもうれしい。きょうだいなど親族から普段もヤーナーで呼ばれている」との回答があったのに対し、60歳代になるとヤーナーで呼ばれていない傾向にあったという。

 付けられているヤーナーは「ウシ」が一番多く、「ハル」「ナビ」「トゥラ」などで、男の子だけ女の子だけのほか、両方に付けられているものもあった。

 冨澤さんは「今回の調査結果を近く論文にまとめ発表したい。東京のテレビ局(民放)が『与論の人々には日本で珍しい二つの名前がある』と放送したことで、ヤーナーが見直され、この風習を継承していこうという機運の高まりを感じた。子どもたちの祖父母にあたる高齢者からは『子孫に恥じない生き方をしたい』という声も聞かれた」とし、「子どもたちの『おばあちゃんからもらった名前を大事にしたい』との感想もあった。先祖とのつながりを感じる日常が子どもたちにも継承されており、ぜひ与論では『ヤーナーの日』を設け、その日はヤーナーで呼び合うようにしたらどうか」と提唱している。

 冨澤さんは奄美の全市町村を対象に調査を重ね、長寿要因とその支援要因などを研究。論文にまとめ、論文博士として学位(経営学)を取得。著書には『長生きが幸せな島〈奄美〉』『幸福な老いを生きる:長寿と生涯発達を支援する奄美の地域力』がある。