日本ソテツ研究会のメンバーが来島、奄美市笠利町打田原集落では和田昭穂さんらとの意見交換が行われた
和田さん所有のソテツから種子を採取する髙梨裕行会長ら
奄美大島北部を中心に外来カイガラムシ(アウラカスピス・ヤスマツイ=英語表記の通称CAS〈キャス〉)被害の拡大が続いているが、自生地などの遺伝子保存へ一般社団法人日本ソテツ研究会(髙梨裕行会長)のメンバーが来島している。16日は奄美市笠利町の打田原(うったばる)集落を訪れ、種子(ソテツの実のナリ)を採取したが、フィールドワークによる島内の被害状況として「葉だけでなく幹、根にもCASが付着」していることが報告された。
来島しているのは髙梨会長のほか、松方哲哉副会長、栗田雅裕事事務局長。15日に来島し18日まで滞在予定で、事前の要請で活動に理解を示した在住者の協力により種子採取を進めている。
打田原集落で受け入れたのは和田昭穂さん(91)。荒廃していたソテツ林を集落が管理し、ナリを原料にした特産品開発(粉化し、煮ると団子(だんご)、蒸すと餅、焼くとせんべいなどに加工)で集落再生を図ったが、その先導に立ったのが和田さん。ソテツを増やすため和田さんは交配にも取り組み、現在も自宅周辺には自生のほか増殖で植栽された多くのソテツがある。
髙梨会長は「当会の活動は、種子を採取させていただき遺伝子を残すことに軸足を置いている。奄美大島のCAS被害は予想以上に拡大しており、こちらに被害が及んだ場合でも遺伝子の保存により和田さんが守ってきたソテツを残すことができる」と説明。和田さんは集落以外の周辺の被害状況も報告し、「行政に相談しても個人の対策に委ねているような感じがする。薬剤による効果的な対策は確立されているのか」と質問。髙梨会長ら一行は「我々は研究者ではないが、フロリダなどCAS被害が深刻な海外の情報を入手している。日本で登録されている薬剤による効果的な対策の研究が進むことを期待したい。CASはマイナス6度でも越冬するとされている。被害が出ている奄美や沖縄からの株の移動で本土でも被害が発生する可能性があり、移動を規制することが必要ではないか」と述べた。
和田さん所有のソテツの種子採取の際はスマホのGPS機能を活用し場所を記録。どこのソテツか、由来が分かるようにしている。髙梨会長は「空港から北部周辺を回ったが、かなり深刻。道路沿いに植栽されたソテツの9割は枯死しているのではないか。和田さんのように、これまで奄美のソテツを守る取り組みをされた方には薬剤の助成など民間に任せるだけでなく行政としての支援も検討していただきたい」と語った。
多くのソテツ科植物に加害するCASの生態的な特徴として▽1年に8世代の発生(中国で確認)、雌成虫1匹から100匹以上に繁殖(台湾で確認)▽雌成虫は殻で覆われ移動できないが、雄成虫は羽を持ち飛ぶことが可能―などある。