名瀬小と中村小(練馬区)の交流見守る

鎌倉の飲食店で開かれた出版パーティーの様子。右側で猫人形を操るのは井上さん


絵本の贈呈式に奄美大島を訪れた島岡さん、井上さん、高橋史明さん(左)=提供写真

東京と奄美の小学校を結んできた島岡さん
「次世代へ引き継ぎたい」
復帰70周年に寄せて

 12月25日、奄美は日本復帰70周年を迎えた。記者は今から30年前の復帰40周年の本紙企画で「当時の子どもたちはどうしていたのか。スポットをあてる」特集を組んだ。東急エージェンシーに勤務していた島岡稔さんが持参していた一枚の写真。それには名瀬小と練馬区中村小の児童たちの交流が行われていたことが分かった。奄美を訪れた使節団の2人を探し、島岡さんに連絡先を伝えた。その後の島岡さんの行動は素早く、2人の使節団だけでなく関係者との交流を30年もの間、続けてきた。今年、復帰70周年を記念して「子どもたちに伝えられる絵本を作りたい」と作者の井上由利子さんの手を借りて『はるかな友へ 奄美の日本復帰と子どもたち』(南方新社1500円+税)を刊行した。これまでの取り組みを紹介する。(永二優子)
 
 12月15日、島岡さんの住む鎌倉の飲食店で、鶴岡八幡宮の境内でラジオ体操を続ける「鶴岡ラジオ体操友の会」のメンバー約20人が参加して絵本の出版記念パーティーが開かれた。仲間の1人、桐ケ谷協一郎さんが絵本の朗読をした。読み聞かせをするのはとても耳に心地よく、初めて奄美のことを知るらしく、あちこちから「来年は奄美に行きたいね」との声が聞かれた。作者の井上さんも訪れ、「アダンの花言葉は勇敢、タコノキの花言葉は集い。子どもたちの集いが今なお続いている」と、記念式典の3日間にかけて子どもたちを取材し、代々続く集いに感嘆の声。

 絵本の企画をした島岡さんは「うれしいの一言。絵本にしてよかった。絵本を通じて伝わっていくのは、これもまたうれしい。70周年の節目になった。次世代へつながっていくでしょう」と満面の笑みで絵本を購入した参加者にお礼を伝えた。

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 島岡さんは、編集者や引率していた教員(すでに亡くなっていた)を探し出し1999年、使節団の1人、高橋孝泰さん(故人)と一緒に中村小新使節団として奄美大島を訪問。

 以来、名瀬小、中村小の両校はお互いに交流を続け、5年前には奄美から寒い冬のスキーを体験する新使節団交流も行われた。今年で中村小の新・少年少女使節団は4回目の奄美訪問だった。

 その間にも島岡さんは中村小に樹齢100年はありそうなソテツを寄贈するなど、節目節目に両校の架け橋となって東奔西走してきた。 

 70周年記念の絵本作りに取り組んだ井上さんは、夏からそれまでのゲラ下絵の書き直しなど写真家の大社(おおこそ)優子さんと編集デザインを担当したオダギリミホさんとの3人でのやり取りに終始、「脱稿するまでタコノキは何度も書き直した」と苦労したことを明かした。

 また、今回は大社さんが撮影した「奄美日本復帰70周年記念 中村小・名瀬小 少年少女使節団交流会 2023年7月27日~29日 記念アルバム」が交流した児童らにプレゼントされた。

 12月初旬に島岡さんは、井上さんと使節団の一人だった高橋さんの息子・史明さんと一緒に絵本の贈呈式で名瀬小を訪れた。高橋史明さんは「父は、いつもはムスッとしているけど、奄美の話題になると本当に楽しそうな顔だった」と井上さんに話していた。島岡さんは今、「今後は名瀬小・中村小両校の末永い友好と、井上さん、大社さん、史明さんの仲間たちでつながっていくでしょう」と期待を寄せている。

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 鎌倉駅近くの島森書店の書棚には『はるかな友へ 奄美の日本復帰と子どもたち』の絵本がすでに並んでいた。井上さんの描いた表紙のアダンの色はとても鮮やかだった。