有効活用の処方箋 ハコモノ行政考える 上

奄振事業で整備されたハコモノである奄美大島選果場。優れた機能を誇る光センサーが設備さているのに十分活用されず、開設当初の目的は整備から10年が経過しても達成されていない


特産果樹タンカン生産で屋久島と奄美大島の違いを語るJAあまみ大島事業本部果樹部会長の大海昌平さん

一元化、10年経過も達成できず

 昨年の県議会12月定例会。今年度末(今年3月末)に期限を迎える奄美群島振興開発特別措置法(奄振法)の延長について塩田康一知事はこう述べた。「県の総合調査に基づき国の審議会から『来年度以降も現在の法的枠組みにより特別措置を講じる必要がある』などとする意見具申が国に対し示されている。引き続き関係国会議員や県議会、地元市町村と一体となって法延長実現へ国への働き掛けに取り組む」。2022年度にまとめられた総合調査報告書では、法延長・充実の必要性として課題も挙げている。その一つに社会資本整備がある。奄振事業ではこれまでさまざまな社会資本整備が施されてきた。その中の公共施設(ハコモノ)は有効活用されない場合、維持管理などの運営面で重荷となる。群島内市町村がまるで競うように整備してきたハコモノ。当初の目的通り十分に活用されているだろうか。法延長の先の新たな奄振計画の方向を探る上で、整備後の公共施設の有効活用に向けた〝処方箋〟を見いだしたい。

 奄美市名瀬朝戸にある奄美大島選果場。内部・外部の品質保証が可能な光センサーが設備されているが、この施設も奄振事業で整備されたハコモノだ。施設整備費約1億3800万円で、総事業費は約3億円。このうち半分は国庫負担(奄振非公共事業)で賄われ、残りは農家戸数や生産量に応じ奄美大島内の5市町村が共同負担、管理運営するJAも負担している。

 ■必要性

 奄美の特産果樹で、山地の多い奄美大島では適地適作となっている果樹農業の柱・タンカン。収穫開始を前に選果場が完成し、落成式が行われたのが13年1月28日。11年度から2か年計画で進められた施設整備の目的は「奄美大島内の果樹選果一元化」。なぜ一元化が必要なのだろう。

 「島内には販売の経路として三つのチャンネルがある。地元市場、JA、農家個人での販売(個販)。温州ミカンなどかんきつ類が少ない時期に中晩柑類のタンカンは出回ることから、この三つのチャンネルで購入した人は贈答用などとして発送する。ほとんどの品物が島外に出、地元消費はそれほどない。問題はここにある。三つのチャンネルとも選果基準が統一されていないため、品質がばらばら。同じ『奄美たんかん』なのに外観・味が異なる。糖度が高くおいしいものもあれば、同じ箱の中に低糖度で酸っぱいものも混入している。これでは産地として信頼されない」

 JAあまみ大島事業本部果樹部会長の大海昌平さん(67)は、選果窓口を一つにする一元化の必要性を語る。

 当時の選果選別の状況は、どうだったのか。大海さんによると、地元市場に出す農家は個人判断(個人の思い優先)でいいもの・悪いものを選別。中には大・中・小の大きさで分ける農家も。外観も中身(内部品質)も保証ではなく、見た目など自分自身の判断だ。JAもサイズ選果で外観は選別できても中身の保証はできなかったほか、自前の選果場を持たず「この30年間で6か所程度選果場所が変わっていた。物はあっても外に出すための取り組みが不十分だった」。

 「奄美たんかん」という統一された化粧箱で出荷されても中身は統一されていない。改善に向けての取り組み。これが選果場整備のスタートだった。整備にあたり行政関係者や生産者は、既に光センサー付きの選果場が整備されていたタンカン栽培の先進地・屋久島に何度も出向いて視察を重ねた。

 ■屋久島

 屋久島研修は昨年11月中旬にも行われている。そこで感じた違い。大海さんは「JAの取り組みの差」を挙げる。屋久島のJAの共販率は全体の半分程度。それほど高くはない。だが、JAの強さとして大海さんが注目したのが選果場を利用させる仕組みだ。その一つが規格外で加工品用を含めた「全量引き取り」であり、JAは集荷用のコンテナを部会員に配ることから始まる。

 JAが配ったコンテナに農家は収穫した果実を入れるが、それが選果場に持ち込まれるのを待つのではない。「屋久島はJA職員が集荷体制を構築し、農家を回ってコンテナを回収している。ほとんどの地域に出向いて。全量引き取り、集荷の徹底。これがJAの強さだ」。大海さんは指摘する。農家からJAが引き取り集荷したものは選果場に運ばれ、光センサーに掛ける。それによって外観・中身の品質の良い順で秀・優・良品にランク付けされるが、屋久島では規格外品でも光センサーに掛けて箱詰めし、出荷する。ジュースなどの加工需要があるからだ。

 屋久島には、奄美市名瀬にある名瀬中央青果㈱のような市場は島内にはない。出荷先は島外のみ。鹿児島市内の市場などに出しており、当然、全国から出荷されるかんきつ類との競合になる。「屋久島は全て外で勝負している。品質重視で。品質保証が可能な光センサーがある選果場を利用することで、勝負できる商品を出荷している。ここ(奄美大島)は島内に市場があり、島内のみの競合で、しかも品質に関係なく(光センサー利用の条件なし)出せる。これが品質に対する屋久島との差になっているのではないか」(大海さん)

 集荷や販売だけでなく営農に対するJA職員の差も感じるという。「ここ(大島事業本部)の営農担当指導員は非常勤職員1人で、屋久島よりも広い範囲を回っている。奄美の場合、JAだけでなく各市町村に技術指導員が配置され、数的には確保されているかもしれない。しかし市町村とJAの壁がないか。それぞれが同じ気持ちになり、同じ方針で活動しないとJAの指導員が少ないだけにカバーできず、逆に農家が戸惑ってしまう。屋久島はJAの営農指導も職員数の面で充実しているだけに、同様に対応していくには奄美は一体化が欠かせない」

 大海さんはさらに続けた。屋久島と奄美大島の違い。屋久島は1町、奄美大島は5市町村。「同じ『奄美たんかん』なのに市町村の取り組みがまとまっていない。本来、産地づくりのまとめ役はJA。ところが大島事業本部の取り組みは弱い。まとめきれていない」。産地をまとめきれない現状が、開設から10年が経過しても奄美大島選果場が目的(集出荷の一元化)を達成できない要因の一つかもしれない。