有効活用の処方箋 ハコモノ行政考える 中

奄美市住用地区の果樹農業をリードしてきた元井農園。現在の園主の孝信さんは生産するタンカン全量の選別を奄美大島選果場で行っている

 

 

選果場に設備された品質保証が可能な光センサー

 

 

赤字運営、全量農家は信頼評価

 

 

 県大島支庁発行の『2022年度奄美群島の概況』には市町村別農業生産実績が掲載されている。作目別でタンカンをみてみよう。示しているのが20年度実績。奄美大島計の生産量は1095㌧と1000㌧を超えている。市町村別で最多は奄美市(名瀬・住用・笠利3地区の計)で650㌧、全体の6割弱を占める。これに次ぐのが瀬戸内町で300㌧、奄美市の半分以下だ。龍郷町88㌧、大和村40㌧、宇検村18㌧と続く。大和村では山頂部分にある盆地のため寒暖差から高品質のタンカンが生産されている福元地区で栽培面積が拡大していることから、生産量の大幅な伸びが期待されている。

 地域の枠組みを超えて奄美大島の5市町村とJAが広域連携を図り、統一基準を実施する施設を目的に掲げた奄美大島選果場。受け入れる年間数量は「450㌧」を打ち出した。タンカン生産量は表年と裏年(隔年結果)があり、安定生産が課題だが、それでも奄美大島全体の生産量の状況から受け入れ量は十分可能と判断できる。ところが開設後10年間、一度も達成されていない。

 ■赤字運営

 昨年10月中旬、JAの果樹部会全体会議の中で大島事業本部が選果場会計の収支決算を公表した。それによると選果場で受け入れる農家からの持ち込み量が266㌧だった22年度実績では、収益を上回る費用の発生により159万円の赤字となった。今年2月受け入れの23年度計画では250㌧の持ち込み量を見込んでおり、人件費などの見直しで費用を縮小しているものの、それでも70万円余りの赤字を算出。保守修繕費や雑費(長期前払い費用)などを含めたJAの選果場会計損益では457万3千円の赤字を見積もっている。

 開設当時に弾き出した数字を達成できない結果が赤字の累積を招いている。「繰り越しの欠損金分をJA内部で補充できる財源がない」(大島事業本部役員)。そこで全体会議では収支改善策として農家に負担を求める選果料の引き上げが提案された。

 数字が達成できない↓赤字↓農家負担増――。これを避けるためにも生産量がどこに流れているか考えたい。大海さんが指摘した三つのチャンネルのうちの一つ、地元市場・名瀬中央青果はどうだろう。同青果によると、昨年のタンカン取扱量である22年度産の場合251㌧、裏年の21年度産は194㌧だった。22年度を比較すると260㌧台だったJAを下回るものの、その差はわずかだ。

 ところで、JAと中央青果の数量の合計は517㌧。奄美大島の生産規模の半分であり、もう一つのチャンネルである個販(農家による販売)がかなりの数量に上ると推測できる。地元市場に持ち込まれる分が加わるだけでも開設当初の数字をクリアできる。だが、光センサー利用のメリットは十分に浸透していない。奄美市農林水産課によると、中央青果に持ち込まれた22年度産タンカンのうち奄美市分は129・8㌧で、光センサーを利用して持ち込まれた数量はわずか3・6㌧にとどまっている。前年の21年度産は114㌧に対し、光センサーは7㌧だった。光センサー利用は逆に減ってしまっている。一元化が実現する兆しはなく、むしろ遠のいているようだ。

 ■全量利用

 奄美市住用町の元井農園。古くから果樹農業が盛んで「みかんの里」としての歴史を刻んできた住用地区の中核を担う歴史ある農園だ。現在の園主の元井孝信さん(67)で3代目。園地は名瀬地区にもあり、平場(下場)で12月に収穫できることからお歳暮需要がある津之輝、山地の上場でタンカンを栽培している。

 「名瀬地区の昔からのタンカン農家は名前で売れる。追いつこうと光センサーが利用できる選果場に、JA共販と選果委託分全量(22年度産は約40㌧)を持ち込み流している。選果によりランク付けして値段を決めているが、購入するお客さんに安心して出荷できている」と元井さん。

 光センサーを利用するまで元井さんは自分の目で一つずつ確認して選別、ランク付けしていた。判断材料は見た目であり、糖や酸を確認する味見は全てチェックすることは不可能だ。「タンカンの品質は栽培する畑によっても異なるだけに、今は味の統一ができている。最高の秀品の中にランクが落ちる優や良品のものが混ざることはない。光センサーによる品質保証は信頼の証し。島外に出すものは選果場を利用すべき。それが『奄美たんかん』の信頼となり、全国に誇れる産地となる」

 JAあまみ大島事業本部果樹部会長の大海昌平さんによると、JAの果樹部会員数は約400人。「まともに選果場に出すのは部会員でも100人程度にとどまる。残念でならない。こちらは委託も共販も全て選果場に出している。むちゃくちゃ楽。利用する以前、選果選別は夜遅くまで要した。今は機械に任せればいいのだから。贈り物としてタンカンが届き、食べてみて一つでもまずいものが含まれていると、人はまずい印象の方が強くなる。どんなに外観が良くても味の方が優先される。選果場は奄振事業で整備された公共施設。島民みんなの物だ。産業を発展させる財産としてみんなで利用すべきではないか」。大海さんは力を込めた。