日本ソテツ研究会 奄美大島でのフィールドワーク報告

昨年12月に行われた日本ソテツ研究会による種子採取(奄美市笠利町打田原で)

遺伝的多様性を保全
種子約500個採取

 一般社団法人日本ソテツ研究会(髙梨裕行会長)は2023年12月、ソテツへの外来カイガラムシ(アウラカスピス・ヤスマツイ=英語表記の通称CAS〈キャス〉)被害が拡大している奄美大島で第1回フィールドワークを行った。その結果をまとめ8日に公表。北部を中心とする複数の生息地に自生している雌株累計25株からの種子(ソテツの実のナリ)約500個と若干数の子株採取を報告し、「遺伝的多様性を守ることを企図している」と説明する。

 フィールドワーク期間は同月15~18日で、髙梨会長のほか、松方哲哉副会長、栗田雅弘事務局長が来島した。許可を得て採取をしたのは奄美市笠利町のあやまる岬、打田原、群生地が観光資源となっている龍郷町安木屋場。採取種子数の内訳はあやまる岬188個、打田原192個、安木屋場124個。

 CAS被害が現在進行形で続いていることから、遺伝的多様性を残すための域内保全・域外保全を前提とした採取。報告によると、種子は各採取地点における位置情報などの整理を踏まえ、域外保全では今後国内外の複数の植物園あるいは研究施設に保存管理を委託する予定という。採取した子株については域内保全(奄美大島内の複数の協力者のもとで管理)が行われている。今後、各採取場所のソテツがCASによって失われた場合には、「同じ生息地における採取個体を植え戻す選択肢を残すことで、その遺伝的多様性を守る」ことができる。

 報告では、奄美大島北部地域のソテツの状況について説明。「海岸線では既にほとんどのソテツ株が枯れ込んでおり、複数の生息地は壊滅的状態にある」と指摘する。奄美大島ではソテツは「社会的・文化的に深く根差した植物」として、急峻(きゅうしゅん)地では土留めにより土砂崩れを防ぐ役割も有しているが、群落がCAS被害で消失した場合、「土砂崩れ被害といった災害や、それに伴う防壁工事としてコンクリートで斜面を固定するといった形での景観への影響も懸念する」としている。