伝統の黒糖産業に公的支援を

徳之島の昔ながらの工程による黒砂糖(純黒糖)製造風景(資料写真)

国文化財化と「がん抑制」
大きな注目 〝二重の好機〟生かせ

 国の文化審議会は「薩南諸島の黒糖製造技術」の無形民俗文化財指定を文部科学大臣に答申し、近く官報告示される。一方では、長寿者の割合が比較的高くその黒砂糖(黒糖)をおやつにしている奄美群島民を対象としたコホート研究(要因対照研究)で、黒砂糖の摂取が多い人ほど「がんの発症リスクが低い」との学術論文が発表され、注目されている。

 甘味資源法に守られた分蜜糖(粗糖・白砂糖)製造業界。また、沖縄県では含蜜糖(黒砂糖)製造業界も一部公的支援対象となっている中で、本県・奄美群島の黒糖産業界は、原料サトウキビの買い上げはおろか「公的支援はゼロ」のままだ。サバイバル的に個別の延命努力に委ねられてきたという。

 全国6番目、九州初となる国の無形民俗文化財指定。そして黒砂糖に関しては初とみられる疫学研究成果の学術発表。この〝千載一遇の二重の好機〟を逸することなく、均衡ある公的支援を今こそ検討して手を差し伸べるべきだ。

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 国指定無形民俗文化財となる「薩南諸島の黒糖製造技術」は保護団体を特定せずに、種子島~与論島の島々に伝承される黒糖の製造技術が対象。サトウキビを原材料に伝統的な「砂糖小屋(さたごや)」の共同作業場で、昔ながらの熟練技術を伝承してキビの搾り汁を煮詰める。薩南諸島における産業や、我が国の製糖技術と変遷を考える上で注目されると価値付けた。

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 黒砂糖はミネラル、ポリフェノール、ポリコサノールなどを豊富に含むが、健康面への疫学研究などほとんどなかったという。本紙はかつて「敬老の日」特集で群島内の新100歳の長寿者たちの近況を紙面で紹介していた。毎年7割以上の方が、毎日の楽しみは「お茶で黒砂糖を食べ、テレビを見ること」などで共通。経験則で「黒砂糖こそ長寿食では?」との思いを抱き続けていた。

 「黒砂糖に、がん抑制効果か~」に関する論文が掲載された学術誌は「アジアパシフィックジャーナル」の昨年12月号。鹿児島大学医学部関係や国立研究開発法人健康・環境リスク部門環境疫学室などの共同コホート研究「黒砂糖の摂取量と減少との関連性―日本の奄美群島地域におけるがんのリスク」が原著。群島住民5004人(男性2057人、女性2947人)が協力。13、14年(中央値)にわたって追跡調査した。

 「黒糖摂取と部位別がん危険度」調査は、黒糖摂取が、▽少ない(週1回未満)▽中程度(週1~6回)▽多い(1日1回以上)―の3択で追跡調査。その結果「多い人」は「少ない人」に比べて、危険度が全がんで約40%減、胃がん約70%減、大腸がん30%減、肺がん約60%減、乳がん約50%減、前立腺がん約10%減。原因は未解明だが、顕著なデータを得ている。

 ちなみに、黒糖等の適正表示(消費者庁)では、①「黒砂糖・黒糖(同義)」=サトウキビを搾って煮詰めそのまま固めた製品、固形状や粉状も②「加工黒糖」=黒砂糖に粗糖(白砂糖の原料)や糖蜜などを混合、加工した製品③「加工糖」=粗糖や糖蜜などを混合した製品(黒糖は無使用)―などを定義している。

 伝統の黒糖産業育成面の実態では、関係者いわく「大型製糖(分蜜糖)工場は原料キビ買い上げ価格の国交付金(補助)がトン当たり約1万6千円。零細のわれわれ黒糖工場は手かさぎ(手作業収穫)キビ買い上げ負担の平均は約2万4千円。毎年工場を維持するのが精いっぱいだ」。関連の黒糖焼酎原料も「(安価な)外国産黒糖とコメで製造されているのが現実」という。

 お隣りの沖縄県では「沖縄黒糖(商標)」販路拡大推進事業による新商品開発、沖縄製糖業体制強化対策事業(内閣府沖縄振興局、今年度5億円)などもある。だが在庫増など厳しさは変わらず、JA沖縄や同県離島の黒糖製造関係者たちは県に対し経営の安定化支援を要請。同県は「地域産業を支える重要な産業」と前向きの姿勢を示している。

 公的支援「ゼロ」の本県でもこの〝二重の好機〟を逸することなく、そろそろ腰を上げるべきだ。
(米良重則)