離島における博物館を活用した島づくりをテーマにしたフォーラム
【東京】離島における博物館を活用した島づくりをテーマに、公益財団法人日本離島センター主催の「しまづくりフォーラム」が8日、東京・永田町の全国町村会館であった。離島の博物館が住民、地域振興にどのような役割を果たしているのか、4か所の島所在の博物館学芸員(うち2人はオンライン参加)による講演があり、現状の課題や今後の博物館活用などを討論した。オンライン配信され、全国の博物館関係者らが見守った。
対馬博物館 (長崎県)の尾上博一さんと谷尾崇さん、利尻町立博物館(北海道)の佐藤雅彦さん(オンライン)、佐渡博物館(新潟県)の 本間 裕徳 さん、久米島博物館 (沖縄県)の砂川 暁洸 さん(オンライン)が講演。講演後の総合討論会には、ファシリテーター(司会進行)に千葉県立中央博物館分館・海の博物館の平田和彦さんを迎えた。
講演では各持ち時間30分の中で、島と館の特色、取り組んでいる活動などが紹介された。
それによると、対馬博物館は対馬の歴史、文化、自然を伝える総合博物館として2022年に開館した。大陸系と日本系の生き物が混在する場所でもある対馬。自然史担当学芸員の谷尾さんは、大学院生の頃に絶滅危惧種のツシマウラボシシジミの研究で来島。保全に関する研究に取り組み、その縁で島の学芸員になった。特別展やその道のプロを招いて、昆虫採取、標本教室などのワークショップを開催。地域との交流を図り、島の昆虫の魅力を発信している。
利尻町立博物館の佐藤さんは地元の植物の写真集を出し、地元の人を紹介。その人の活動を通して地元の良さを地元が知る大切さを取り上げた。「小さな博物館なので、全てはできない。ネットワークを構築し、50年後、100年、200年後を見据えた活動に取り組んでいる」と語った。
金銀山、トキなどで知られる佐渡には10の博物館と資料館が点在しており、佐渡博物館は「佐渡を1か所で学べる総合博物館」として1957年に開館。点在する資料館からピックアップして紹介している。本間さんは、持ち込まれた動物テン、イタチによって、トキなどの固有種が減っていった現状なども説明した。
久米島博物館は2000年に開館。総合博物館として久米島の自然、歴史、民俗、美術、工芸の収集と展示を行っている。砂川さんは琉球大学考古学研究室で「久米島のグスク出土の貿易陶磁器」をテーマに研究。18年から学芸員として久米島の水中遺跡をテーマに調査研究を進めている。久米島沖で座礁したイギリス船の足跡を探っており、水中遺跡の探索・調査・研究活動を通じて進行中とした。
砂川さんは、遺跡を通して、久米島の歴史や世界の広さを知ってもらう取り組みも紹介。島内の子どもたちを対象に見学会を実施しており、遺跡を荒らすことがないように、「触ったり、持ち帰ることをしない」などのルールを作っているとした。
講演後の総合討論では、離島にある博物館の課題や島づくりでの役割などを報告。この中では、「子どもたちが島を出ても島を知ることで地元への理解につながるだけに、学校や地域を巻き込んだ活動」「島を調査研究している研究者との連携も交流・関係人口に役立つ」との意見があった一方、「船や港を利用したパネル展示を企画しても、お金の面などから難しいと言われ断念してしまう」といった課題も指摘された。
ファシリテーターを務めた平田さんは「博物館の仕事は全てにつながっている。調査や発掘をすることが島の魅力となり、島の発展につながる」と島の博物館の役割を指摘。文化財の保全と同時に価値を子どもたちや地域に伝えるなど「循環を見据えた島づくりと魅力発信」が提案された。