奄美の唄者らを支えた名店が25周年

「こだま」でのライブを告知する昨年11月のチラシ

「島を感じられた店」
沖縄とのコラボも模索?

 JR総武線小岩駅から徒歩で約2分の江戸川区南小岩7の27の16、桂昇南小岩ビル2階に「沖縄料理居酒やこだま」がある。昨年秋開店25周年を迎えたが、これまで奄美群島の多くのアーティストを支えてきた。奄美ファンや出身者にとって心安らぐ、店の魅力を最多出演者の一人、里アンナさんのコメントを中心に紹介する。

 彼女のほか、里歩寿さん、平田まりなさん、森田美咲さんら唄者。ほかに、シンガー・ソングファーマーの禎一馬さん、新民謡の久永美智子さん、久永さとみさんも同店の舞台で熱唱、この3月には「奄美大島から島唄名人がやってくる」との触れ込みで、福山幸司さんが舞台に立った。多くの奄美群島出身者がパフォーマンスを披露しているのだ。店内には、沖縄のアーティストのポスターも貼られており、「沖縄・奄美の応援隊」といった雰囲気も漂う。沖縄の重鎮的存在、ネーネーズは何度も登場している。

 奄美出身者で最初にライブを行ったのは「おそらく里アンナさん」と記憶をたどるのが、店長の渡久地秀泰さん。柱のない広々とした座敷には、大きなテーブルが数多く備え付けられて、それぞれ数人が席に着くことができる。また、調理場に面してカウンターもあり、総勢80人までがライブを楽しめる空間となっている。数年前までは奥に個室があり、出演者の控室としても利用された。我那覇美奈さんが、ライブの状況をラジオで伝えたこともある。

 昨年11月に「奄美うたくらべ―2」というシマ唄のイベントを企画、満員御礼で成功させた奄美ファンの舟貝英伸さんは、同店の魅力をこう話す。「こだまは、ステージが全方向から見やすく、音響も良い。座敷なので、落ち着くし、食事は提供も早くおいしい」。さらに「店側の対応もよくイベントを主催する側は、頼みやすい」と太鼓判を押す。

 月のうち10日から15日は誰かのライブが行われている。気になる沖縄と奄美の違いを聞いてみた。「沖縄は沖縄ファンの東京の人たちが主だが、奄美の場合は、出身者が主で奄美ファンが2割ほど。同じ顔の常連が多い印象ですね」(渡久地店長)とか。一方、飲む様子は、奄美に軍配が上がるようだ。「普段は2種類の黒糖焼酎を置いていますが、奄美の日は、たくさんの種類と量が出ますね」

 奄美の仲間意識、つながりの濃さは、沖縄島北部・本部町出身の父親を持つ店長にとっても驚きだった。「びっくりしたのは、来場者のシマ唄の理解度。私は分かりませんが、皆さん良く知っている。ただシマ唄を歌う、奄美の出演者にあまりバラエティーさを感じない。新しい何かが必要では」と期待を込める。

 その一つの手段として、取り沙汰されるのが沖縄(島唄)と奄美(シマ唄)のコラボレーションだが、果たしてどうだろうか。沖縄と奄美では音階が違うため「明るい沖縄にいいところをもっていかれてしまう。同じステージでは、暗い曲調の奄美が目立たなくなる」と心配する声が聞こえてくるのが実情だ。とはいえ、黒糖焼酎で六調へ、泡盛でカチャーシーへ。唄と酒に浸ってクライマックスでは同じようなシーンが広がる。闘牛の文化も共通することから「店では、沖縄のファンも『ワイド節』は普通に受け入れ、気持ちよさそうに体を動かします。禎一馬さんは、いつも歌っていますね」(渡久地店長)。

 里アンナさんも「数えきれないくらいライブをさせてもらった中で必ず唄ったワイド節は、皆さん本当に楽しそうに唄い踊る姿が忘れられません」と振り返っている。コラボというより、共演での聞き比べがいいだろう。

 数ある料理の中でもお薦めは「ママの出身地の八重山そば」だ。2011年に初ライブをした里アンナさんも「ライブ前や終わりに食べた、八重山そばが、とってもおいしかった」と思い出を語り、以下のメッセージを寄せた。「東京でありながら島を感じられた店は、お客様、私にとっての心の古里。これからもずっとお客様の笑顔、音楽があふれる場所であってほしいと思っています」

 唄と黒糖焼酎に酔いしれながら、奄美を堪能できる都内最大級のライブスペースでは、四半世紀も前から沖縄との連携が模索されていたのかもしれない。このたび、28年度末まで延長された奄美群島振興開発特別措置法では、沖縄との連携も新たに盛り込まれたが、果たして…。
(高田賢一)