希少種ケナガネズミ タンカン果実に食害

今年2月のタンカン収穫期、大和村福元地区の果樹園で撮影された果実をかじるケナガネズミ(提供された動画より)

福元地区の果樹園で撮影
生産者代表「実態の共有大事」

 国指定天然記念物のケナガネズミが、奄美の特産果樹・タンカンに食害を与えていることが分かった。大和村福元地区にある果樹園で撮影されたもので、完熟状態の果実の皮をかじっている様子が記録されている。生産者代表は「農家サイドから見れば作物被害の原因となる『害獣』だが、希少種であり冷静な対応が必要。実態を共有していくことが大事」と受け止めている。

 環境省奄美野生生物保護センターによると、ケナガネズミによるタンカン食害は、昨年度の収穫期(今年2月)に福元地区のほか、奄美市名瀬の知名瀬地区から問い合わせや報告があり、現地を確認したという。アマミノクロウサギによるタンカンの樹皮被害が表面化した福元地区は果樹園の周辺に巣穴があるなど森林内だが、被害が確認された知名瀬地区の果樹園も森林が広がる金作原に近い場所だった。

 食害について同センターは「タンカンの樹皮をはぐクマネズミに対し、樹上性のケナガネズミは果実の皮をかじっている。タンカンは換金作物、しかも収穫前の果実の食害であり、生産者のみなさんにとっては深刻な問題」と振り返る。クマネズミやドブネズミなどの防除には殺鼠剤(さっそざい)が使われているが、ケナガネズミは法令で保護された希少種で使用できない。生け捕りにして確認するしかなく、効果的な忌避剤(きひざい)も現在のところ不明。また個体群の変動も考えられ、ここ1~2年のようなケナガネズミの数が多い状態が今後も続くか見通せないという。全体的な被害実態も明らかになっていない。

 JAあまみ大島事業本部果樹部会長で福元地区に果樹園を所有する大海昌平さん(67)は「ケナガネズミの場合、クロウサギのようにフェンスを張り巡らして侵入を防ぐこともできない。収穫前の果実被害は痛手だが、カラスやヒヨドリ、イノシシに比べると一つの果樹園内での食害量は少ない」と指摘。こうした状況から「世界自然遺産に登録された島であり、産業とこうした希少種が共存できないか。食害情報が一方的に発信されるのではなく、生産者や環境省を含めた関係行政機関、JAで共有し、実態を把握した上でどのような対策を進めるか協議していくことが重要ではないか」と語った。

メモ

 ケナガネズミ 奄美大島、徳之島、沖縄島北部のみに生息するネズミ科の動物で、国内で最も大きなネズミ。30㌢程度の長い尾の先端半分が白いことや、体に長い毛が生えているのが特徴。夜行性で樹上性が強く、雑食で木の実や昆虫類、カタツムリなどを主食としている。絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)では国内希少野生動物種に指定されている(環境省資料より)