奄美市中1自殺問題

男子生徒の自殺を受け生徒指導の在り方などを協議する再発対策検討委員会

再発防止対策検討委議論大詰め
埋まらぬ遺族と市教委の溝

 奄美市の中学1年男子生徒(当時13歳)が2015年11月に自殺した問題で、同市教育委員会が昨年5月に設置した「再発防止対策検討委」(委員長=假屋園昭彦鹿児島大教授)での議論が最終段階を迎えている。市教委は7月14日に開催される第8回委員会で、生徒指導の在り方など再発防止策をまとめた「再発防止ハンドブック」の最終案を提示する方針で、委員会の了承が得られれば議論を終了し、市内各学校などに配布、市ホームページにも掲載し、再発防止に取り組む考えだ。一方、同検討委の委員でもある男子生徒の父親は、「委員の意見が反映されることは少なく、議論の積み重ねがない」などと、委員会の進め方を疑問視。ハンドブックについても「形式的なものになってしまうのでは」と危機感を募らせている。議論が大詰めを迎えるなか、遺族と市教委の間にある溝はなかなか埋まる気配がない。

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 昨年5月7日に設置された同委員会。当初、委員には大学教授や市の顧問弁護士、公認心理士、PTA代表、校長、教頭、生徒指導主任、養護教諭ら計10人を選任。その後、遺族らの要望受け、9月の第3回会合から父親と同問題を調査した第三者委員会の副委員長を務めた栁優香弁護士が加わった。

 双方の議論は、なぜかみ合わないのか、その原因はどこにあるのだろうか。委員会は毎回、非公開で行われるため、どのような議論がなされているのか知ることは難しい。会合終了後、假屋園委員長や遺族らに話を聞くことで、議論内容を取材するしかない。

 父親は「息子の事案に対し、市教委が主体的に検証しなければ、再発防止につながらない」と訴え続けている。ただ、假屋園委員長は、「男子生徒の事例の検証は重要な事案だが、それだけを議論するわけではない。いじめや生徒指導など、学校や子どもたちの様々な問題について議論する必要がある」と、委員会の進め方を説明する。

 こうした中、栁弁護士が2月、市教委に提出した意見書で、再発防止策について、「一番欠かせないことは、第二のAさん(男子生徒)を出さないこと」と指摘。「Aさんが亡くなった事実について、具体的に検証している箇所がない。Aさんが亡くならないためには、どの時点で、誰が、何をどうすればよかったのかという点を具体的に振り返る検証を」などと、市教委に対応を求めた。

 市教委は5月、栁弁護士に回答、そのなかで、「当時、中学校に存在した『生徒指導マニュアル』が十分に機能していなかったことや、教員の『指導ありき』という視点や『よかれ』という一方的な思い込みから生徒を十分に理解できていなかった」などとしている。しかし、栁弁護士が求めるAさんの自殺に関する具体的な検証部分はなく、「心に寄り添う指導について『再発防止ハンドブック』にて提案します」などの表現にとどまっている。

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 男子生徒の自殺から4年以上が経過、市教委の職員も異動となり、当時の状況を直接知る職員はほとんどいない。そんな中で、当時の状況を具体的に調査した第三者委の存在は、再発防止策を検討するためには欠かせない。父親も、市教委に対し、第三者委との協議を求めている。

 一方で、学校教育課の末吉正承課長は「第三者委の栁弁護士が再発防止検討委に加わっていただいている。第三者委の意見も十分に聞くことはできている」と説明。「ハンドブックの中で、具体的な対応策などを示すことで、再発防止に努めたい」などと、市教委の対応に理解を求めている。

 また、再発防止策を検証する第三者機関の設置についても、現在まで前向きな回答はなく、遺族側が求めている要望に対し、市教委はいずれも消極的な対応を取っている。こうしたことも、遺族が不信感を募らせる原因となっている。

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 7月の第8回委員会開催を前に、父親と第三者委の内沢達委員長(元鹿児島大教育学部教授)、栁弁護士は29日午後6時30分から、同市のAiAiひろばで共同会見を開催する。一般市民も参加可能だ。父親は「再発防止に向けた現状とその問題点を、多くの市民に知ってもらう機会にしたい」と話し、市ホームページで公開されている第三者委の報告書に目を通すよう呼び掛けている。

 再発防止という共通の目的に向かって議論しているにも関わらず、なかなか意見がかみ合わない市教委と遺族の間にある溝を埋める手立てはあるのか。再発防止の取り組みを無駄にしないためにも、多くの市民が問題意識を持つことが求められる。
(赤井孝和)