打席に向かうナインを励ます鈴倉健太君=県立鴨池
【鹿児島】「健太と一緒に県大会を戦おう!」。
第46回鹿児島県中学校春季選抜野球大会に初出場した笠利ナインの合言葉だ。3年生野球部員の鈴倉健太君は、昨年夏に突然の病に見舞われ、霧島市で療養生活中。23日に鹿児島市の県立鴨池球場で開幕した県大会初戦の川辺戦、笠利ベンチには、念願叶った健太君の姿があった。
健太君は昨年7月5日、父・大毅さんの野球の試合を応援した帰りに病魔に襲われた。原因不明の脳内出血で、約1カ月あまり意識不明の重体が続いた。幸い一命はとりとめたが、左半身にマヒが残り、8月末から霧島市の施設に移って療養生活を続けていた。
健太君が離れて9人になってしまった野球部だったが、地区大会を勝ち上がって県大会に出場すれば、本土にいる健太君に会うことができる。「その気持ちでチームが一つになった」と喜入大地主将(3年)。3月の地区大会は準決勝、決勝とも判定戦でサヨナラという劇的な勝利で、出場権を勝ち取った。「中学から野球を始めた素人もいて、力はない、気持ちだけのチームが、気持ちを出し切ってくれた」と指揮をしていた佐々木芳晃監督は話す。ベンチには、健太君から託された背番号8のユニホームがあった。
川辺戦では、久々に自分のユニホームに袖を通した健太君が、大毅さん、母・めぐみさんに付き添われてベンチ入り。「出場が決まってから、動かせる右手でグローブを磨くようになりました」と大毅さん。試合は緊迫した投手戦となったが、ベンチにいる健太君の姿がナインを勇気づけた。
初回一死満塁のピンチだったが「健太はもっと苦しいことを頑張っている」と気持ちを入れたエース肥後虎太朗君(3年)が連続三振に打ち取って切り抜けた。以後、七回まで無失点で切り抜けた。
試合は両者無得点のまま、八回以降無死満塁からスタートする判定戦へ。表にエラーも絡んで4失点。その裏、先頭の7番・長井駿君(2年)は「自分のミスで失点したので、何とか取り返したかった」。打席に立つ前は健太君とハイタッチして「パワーをもらった」と一二塁間をしぶとく抜く適時打で意地の1点を返した。後続を断たれ、無念の初戦敗退。3月の異動で笠利を離れたため、スタンドから見守っていた佐々木前監督は「最初は緊張していたけど、最後は楽しみながら野球ができていた。次につながる試合になった」と、ナインの健闘をたたえていた。
現在、健太君は懸命のリハビリの成果もあり、意識ははっきりして、筆談でコミュニケーションもできる。久々にチームメートとベンチに入って「みんな上手くなって良い試合をしていた」と感じた。同時に「自分が出られなくて悔しい」とも。「身体を治して、またみんなと野球がしたい」と決意が芽生えた。敗戦に悔し涙を流した喜入主将、エース肥後君も「もっと、もっとレベルアップして、夏の県大会でまた健太と一緒に戦いたい」と闘志を燃やしていた。
(政純一郎)