地域の人々や自然にも魅せられ農業振興に貢献した瀬川裕美さん=1日、天城町農業センター
【徳之島】天城町農業センター(同町瀬滝)の所長に招へいされ、2年間の単身赴任のつもりが丸5年―。施設園芸品目などの農業研修生の育成にとどまらず、一般対象の「農業塾」や「農業技術セミナー」、市民農園(ゆいゆい農園)の開設に貢献、農業の楽しさと笑顔を広げた。人々や大自然にも魅せられた地での再任務を終えた瀬川裕美さん(72)に思いを聞いた。
瀬川さんは約18年前には県の徳之島農業改良普及センター所長を務め、同島の農業振興に尽力した1人。当時天城町農政課長として連携し、地域の農家に慕われるその人柄と技術指導力・手腕を高く評価していた森田弘光町長から同町農業センター所長に請われた。「やり残し感もあり、徳之島ならまた行きたいと思っていた。何よりも島の人々の温かさと、厚い人情のつながりがあった」と5年前の決断をふり返る。
天城町農業センターの前身は1975(昭和50)年8月に開設された県奄美農業総合センター。94年から同町が管理委託を受け03年1月に無償譲渡。農業研修生(1年課程)の受け入れは95年度から始め、昨年7月までに計57人が入所し48人が修了。メロン、マンゴー、パッションフルーツ、花き類(トルコギキョウなど)の栽培技術の向上・定着、担い手農家の参入に大きく貢献している。
農業研修生の受け入れと並行してこの5年間、町農政課職員と協力して瀬川さんが定着させたのが、非農家も対象にした①農業塾(季節の野菜栽培、花木類接ぎ木、土づくり・施肥、病害虫防除、農業機械、家庭の草花栽培など年間6回)②農業技術セミナー(パッションフルーツ、学校花壇の草花、スイカ、シイタケ栽培など年4~5回)③市民農園(一般個人やグループに開放)④「春の苗もの市」(3月)だ。
町内外の希望者に受講(無料)の門戸を開いている「農業塾」は、お目当ての課題(1コマ約3時間)のみの聴講も自由。余暇農業や家庭菜園など入門を目指すシニア層に大好評だ。19年度の第6回講座(兼閉講式、3月12日予定)は新型コロナウイルス感染症対策で中止となったが、5年間の受講者数は延べ1283人に上っている。
任務を終えた感想や同島農業への提言の求めに瀬川さんは「島は霜も降らず、本土の人間からすると非常に羨ましい。半面、多くの農家に〝作物はいつでも出来る〟的な感覚が。亜熱帯の島にも春夏秋冬はあり、作物の性質と(植付け時期など)折り目もきちっと理解することが大事」。地の利への甘えを一掃することが、品質・所得向上につながると訴える。
個人的には「鎖場を使わない剱(つるぎ)岳登頂」など日本百名山の大半を制覇した冒険家の一面も。植物層にも造詣が深く、徳之島の山岳連山も尾根伝いに踏破した。同島の鍾乳洞もほぼ知り尽す第一人者。31日夜は「銀竜洞」(伊仙町検福)の洞内キャンプで思い出を刻んだ。
森田天城町長は「三顧の礼を尽くし2年間の赴任を依頼し、5年間になってしまった。農業センターに来るのが楽しみになったと、農業に親しむ町民の笑顔も広げていただき心から感謝したい」。引き続き来月開講する第6回農業塾の講師としての来島を要請するという。
瀬川さんは南九州市の出身(九州大学農学部卒、農学博士)。2002年4月から3年間、徳之島農業改良普及センター所長を務めた。