〝民〟だからできるふるさと納税を

今年3月には「ふるさとレストラン」となる飲食店のシェフらが来町し、地場産食材を吟味した(提供写真)

 
奄美せとうち地域公社に転機
ふるさとレストランやお中元セット

 

 新型コロナウイルスの影響から各地で自粛ムードが広がり、閉塞感にさいなまれる毎日。そんな折に、県特産品協会がネット通販を活用し県産品の消費拡大に踏み出したというニュースに触れた。ネット上の取引は感染拡大の心配がなくこうした局面にあって有用だ。ネット活用は通販だけでなく、各自治体が力を入れる、ふるさと納税も含まれるだろう。瀬戸内町はこの4月からふるさと納税に関する業務を、「(合同)奄美せとうち地域公社」に完全委託した。“民”だからできるふるさと納税に注目したい。

 同町は、農業公社設立に向け2016年度に、農林課内に設立対策室を設置。「加計呂麻島を日本一の黒糖の島に」をスローガンに、加計呂麻島への黒糖・キビ酢の生産拠点建設による農業振興と雇用拡大を目論んだ。「加計呂麻では製糖工場・キビ農家の高齢化が顕著。増えていく遊休地をどうにかしなければいけないという思いがあった」と川畑金徳町農林課長は振り返る。

 その後ふるさと納税に関する業務も担うことが決まり、「地域公社」として18年12月に登記。19年2月にはタンカンの買い上げによる返礼品化を開始。小規模農家から集荷し、公社が奄美大島選果場(奄美市名瀬)に運送。公社が買い取り、“公社ブランド”でふるさと納税返礼品として出荷するなどした。

 公社が次の一手として打ち出すのは「ふるさとレストラン」だ。東京都港区西麻布のレストラン2軒に町内産の食材を使用してもらい、食事券を返礼品とするもの。公社がレストランと農業者らをつなぐパイプ役となり、食材を取りまとめて発送。納税者への食事券発送も公社が行うのでレストラン側の負担軽減にもつながる。

 両レストランからは、食事券利用者以外に提供する食事に関しても、「期間を定めて同町食材を利用したい」との申し出も。ふるさと納税外の業務負担は、“公”ではなく“民”だからできるもの。公社事務局の南澤良幸さんは「納税額向上だけでなく、町内農家・公社ともに利益につながる」と期待する。すでにレストランシェフが町内食材で実験的に調理を行うなどしており、近くふるさと納税のポータルサイトにも掲載する予定という。

 このほか、お中元・お歳暮など贈答用の同町物産の詰め合わせセットの開発も検討。返礼品以外にも、お土産利用や通販展開などを見込む。南澤さんは「新たな加工品の開発・生産は、資金的にも能力的にも今の状態ではできない。コンサルティングをする立ち位置としてやっていきたい」としている。

 農産物直売所「いっちゃむん市場」(加計呂麻島瀬相)の運営も、この4月から公社が受託。これについては、現在の店頭に立つ職員を公社として雇用しなおすもので、大きな変化はない。ただし、南澤さんは「マーケティングなどは変える。試行錯誤しいろんなことにチャレンジしたい」。同施設の持つネームバリューを活用した通販サイトの立ち上げなどの構想もあるという。

 当初からの目的としてあった加計呂麻島へのサトウキビ加工施設建造に関しては、現在用地買収中で、3~4年後に建設する方針。公社の業務が広がることについて、鎌田愛人町長は「加計呂麻を含めた町全体の農業振興を図る上で、重要な役割となるよう努めたい。農家と連携し、信頼関係を構築することが今後重要になる」と語っている。

                        ◇

 同町の人気返礼品は▽クロマグロ▽真珠▽パッションフルーツやタンカンなどの果樹▽クルマエビ―などと鎌田町長が教えてくれた。しかし、町内唯一だったクルマエビ養殖場が昨年末に破産し、人気返礼品の一角を落とした状態に。だからこそ、公社企画の新たな返礼品が重要になる。ゆくゆくはクルマエビにとって代わる立ち位置にキビ酢や黒糖が並ぶ未来も見えてくる。

 ふるさと納税、いっちゃむん市場、農業振興…。幅広い業務を与えられた公社の負担は増えるかもしれない。だが横断的な業務を1から任された状態にあり、今後の可能性は広い。公社が瀬戸内町の魅力を日本全国どこにでも届けられるようになる将来に期待したい。
                                            (西田元気)