群島の視座 県知事選2020①

感染者搬送訓練を行った巡視船「かいもん」

医療
十分か離島での感染対応

 Withコロナの時代に、私たちはどんなリーダーを選ぶべきだろうか。奄美に住む私たちの視点から県政に何を求めるか、各分野の関係者らに話を聞いた。
 医療・福祉の最前線では、各機関がベストを尽くして島を守っている。県政のリーダーには、現場のニーズを満たす細やかな調整力が求められる。

奄美群島で新型コロナウイルスの患者を受け入れることのできる病床は5機関21床。現職の三反園訓氏は4月10日の知事定例記者会見で、「新型コロナウイルス感染症に係る緊急対策第2弾」を打ち出した。その中で、離島で感染者が発生した場合は、自衛隊ヘリや海上保安庁の艦船で搬送することとし、その際の二次感染を防止するため、感染症患者隔離搬送バッグを保健所に配布するとした。これらの対策は十分と言えるだろうか。

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奄美市名瀬の「キッズケアホーム にこぴあ」では、0~18歳の障がい児の療育を行っている。医療的ケアの必要な子どもは感染リスクが高く、スタッフらは感染予防に神経をとがらせる。手洗い・消毒はもちろん、人の多い場所には出かけないよう自粛している。

管理者の宮田智子さんは県の対応について、新型コロナウイルス対策の情報などを配信する通知メールがスピーディーに送られてきたと評価する。しかしその内容は、離島においては参考にならないこともある。「子どもの家族が感染し入院した場合は、通い慣れたショートステイで子どもを受け入れましょう」とのメールに対しては「島内に障がい児のショートステイはない。もしメールの内容のような事態になった場合、島内には子どもを受け入れる機関がない。どうすればいいのか」と困惑する。「離島でも、いつ何があってもいいように体制を作る・考える必要がある」と課題を語った。

物品の確保にも苦慮している。マスクやアルコール消毒液は一般家庭に比べて消費量が多い。しかしドラッグストアなどで購入しようとしても品薄で量が確保できない。「事業所の規模に応じて物品を確保できるようにしてほしい」と望んでいる。

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県から配布された感染症患者隔離搬送バッグが使われる最前線では、どのような準備が行われているだろうか。奄美海上保安部を訪ねた。6月18日時点で、隔離搬送バッグはまだ配置されていなかった。

同保安部では、同月8日、通常の搬送バッグを使って訓練を実施。「奄美大島以外の離島で感染者が発生し、ヘリが飛ばない場合に、県立大島病院まで感染者を搬送する」という想定で訓練した。巡視船「かいもん」を使用し、保健所職員や県立大島病院の医師を交えて、防護服も着用。実際に岸壁からタラップ、狭い船内へと患者や医療器材を運び入れる過程で、見えてきた細かな課題を一つ一つクリアにしていった。

防護服の着脱、指示、船内の構造、関係者の船酔いに至るまで、考慮すべき事柄は無数にある。同保安部の大橋和浩管理課長は「いつ本番が来ても大丈夫なように訓練を重ねている。海保だけではできないことなので、関係機関と連携を取りながら、離島における安心・安全を守っていきたい」と話した。

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「政治は調整力」と語るのは、奄美市名瀬のファミリークリニックネリヤの徳田英弘院長。行政には「差別や風評被害を起こさせないために、正しい知識を発信すること」を求める。一方で、コロナ禍を通して人口の東京一極集中が解消され、均衡ある発展が見込めるのではないかという期待も示した。ピンチをチャンスに変えられる県知事は現れるのか。