求められる〝思いやり運転〟

昨年、奄美署管内の事故数はやや改善したが、レンタカー事故は高い水準で推移した(資料写真)

レンタカー事故高水準 ゆとり、ゆずり合いを

 奄美署管内の2020年交通事故概況(速報値)が発表された。事故の総発生件数は前年比71件減の975件と、4年ぶりに1000件を下回るなどトータルでは改善したものの、レンタカー事故は前年比8件減の149件と微減。昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響に覆われたが、発生件数は依然として高い水準で推移。どう事故を防ぐかが急務だ。

 空港近くのレンタカー会社のカウンターに観光客が並んでいた。東京から訪れた男性(32)は「3歳の子が一緒で、車がないと不便」。仕事も兼ねて3日間ほど滞在予定で、スタッフの説明を聞いてカーナビを設定し車を走らせようとしたが、サイドミラーが閉じたままで急ブレーキ。再び聞き直した上で「すぐに慣れるし安全運転だから大丈夫。都会の方がスピードを出す人が多くて危ない」と話し、周遊に出た。

 社員によると、貸し出す際には10分ほどかけて事故の危険性などを説明。「観光の思い出が台無しになると強く啓発している」。事故については「カーナビを見すぎているのではないか」とも指摘。「奄美は急カーブも多い。馴れない道なので気をつけて」と見送った。

 奄美署によると昨年管内のレンタカー事故は149件。全体の約15%を占めている。国土交通省の統計によると、18年は全国で約6千件のレンタカー事故があり、全体に占める割合は約1%。観光の島ということ差し引いても比率は高い。また、19年157件、18年178件、17年129件とここ数年、観光客の増加に比例するように事故も増加傾向にある。

 昨年発生したレンタカー事故のうち、運転者側の過失の重い事故は119件。このうち8割以上が物件などへの接触や衝突といった一方的な過失。奄美署は「基本的な確認を怠っていたと考えられる」と分析している。

 全国レンタカー協会の調べによると、レンタカー事故の起こる主な原因には、「危険の発見遅れ」(60%)、「判断の誤り」(35%)が挙がる。乗り馴れない車では集中力は削がれ、カーナビを見たりや目的地を探すわき見運転ばかりでは注意力を欠く。また、前述のような確認不足による対物事故も増えているという。

 事故を防ぐ対策に王道はないが、基本は「交通ルールの順守」。だが、一時停止などの最低限のルールを守るだけで事故は防げない。そこにはレンタカーの利用者だけでなく、全てのドライバーに意識や配慮が働かなければならない。「相手が安全に行動できる運転」、いわゆる〝思いやり運転〟だ。

 例えば、レンタカーを見かけた際にはいつも以上に車間距離を取る。来島者は島内の事情に不安があることに配慮することで、接触の可能性は低くなり、距離を取ることで相手の動性も見守りやすくなるというメリットにもなる。

 また、レンタカーは目的地への到着を急ぐあまり無理な進入や急な進路変更なども考えられる。同署・竹下直志交通課長は「常に心にゆとりを持ち、可能な限りゆずり合い運転を心掛けてほしい」と呼び掛ける。

 来島する観光客が増えれば、大きな経済効果が見込める半面、事故も増えることが予想される。レンタカーの交通事故もそうした「観光公害」の一つともいえる。完全な解決は難しくても、多くの人が少し意識を高めることで事故も少しは防げるはずだ。

 それは翻って、島の人にとってもプラスになる。例えば高齢者の事故の多さも問題になっているが、観光客が行動しやすい環境は、視力や判断力の衰えた高齢ドライバーにとっても運転しやすいはず。違いを乗り越える〝思いやり〟が求められている。 (青木良貴)