奄美群島の名字に迫る

昨年12月に松山さんがまとめた著書

徳之島出身、松山さん著書
一字名字特徴 読み方もバラエティー

 名字(苗字)は最近テレビのバラエティー番組で取り上げられるなど、注目度が高まっている。このほど徳之島出身者が、奄美群島の名字について興味深い著書をまとめた。それを基に、コロナ禍でかなわない島へ思いをはせたい。

 『奄美群島の名字・今昔』を昨年12月に発行したのは、松山哲則さんだ。きれいな砂浜を思わせる純白の表紙に、高校の後輩(弟の同級生)である中林(旧姓・松山)みゆきさんから提供された写真が鮮やかに映える。県立徳之島高校から日本大学の生産工学部を卒業した松山さんは、建設会社を経て埼玉県で医療、福祉施設の設計に携っていた。一級建築士で徳之島郷土研究会会員でもある松山さんは、2018年にNHKの「日本人のおなまえっ!」で奄美が放映される際に、担当ディレクターの訪問を受け、資料を提供する機会があった。やがて、奄美出身の知人から「ルーツを知りたい」「由来を知りたい」などのさまざまな質問が寄せられるようになり、今回の出版に至った。

 収集には明治12年の地租改正に伴う土地台帳である、県作成の「竿次帳(さおつぎちょう)」とNTT西日本作成の「電話帳」を利用。国立公文書館や図書館へ足を棒にした。2012年に着手し、14年には徳之島、15年に宇検村(奄美大島)、17年に喜界島、18年沖永良部島、19年加計呂麻島(瀬戸内町)と進めてきた収集は、8年目にして遂に8島(現在の1市9町2村)の名字との出会いを果たすのだった。

 著書によると、奄美の名字の特徴「一字名字」は、与路島(瀬戸内町)24・2%、奄美市住用町が21・6%と多く、その他の市町村でも11%から19%あり、一番少ない知名町(沖永良部島)でも9・9%となっている。読み方もバラエティーに富んだものが多く「中(あたり)」「文(かざり)」「井(わかし)」などの難読文字が整理されている。歌手の中孝介さん、元ちとせさん、城南海さんが思い出されよう。

 また、同じ文字で、読みが異なるケース、東(あずま・ひがし)、政(つかさ・まさ)などがあり、逆に同音で異なる文字もある。「はた」(畠・畑)、「みなみ」(南・陽)といった具合だ。「のり」に至っては則・乗・法・程・典・範と多数あるという。島の名称も一文字名字に。徳(とく)、沖(おき)撰(えらぶ)、喜界島の喜(き)や、界は「さかい」と読むそうだ。

 さらに、加計呂麻島には加(くわえ)計(はかり)麻(あさ)の名字が存在するという。自然豊かな奄美群島とあって、桂(かつら)、槇(まき)、葛(かずら)など樹木や植物名称の文字も。赤、青など色からも。新極真会代表の緑健児さんは、そのケースだ。「このように一文字名字だけをみても、多くの文字が使われ、同音異字が多くあるのも興味深い」と記されている。

 本土と同様「二字名字」が圧倒的で伊集院、伊地知など「三字」も各市町村にあるが、瀬戸内町の請島、与路島には見当たらないようだ。「四字名字」もあるが、それはぜひ、著書から探してほしい。

 松山さんは「人口に対する名字の数は、瀬戸内町、加計呂麻島、喜界島が多い」としたうえで「竿次帳は、多くの人が毛筆で、字体もさまざまで解読が難しかった。『名字拾い』は単純作業でしんどかった」と苦労を振り返る。各島の特徴なども解説されており、出身者にとっては懐かしい名字に遭遇するに違ない。「奄美群島ゆかりの皆さまには、ふるさとの島々の親戚、遠く離れて久しく会っていない友人、知人などを思い出すきっかけになれば幸いです」と著者が語る『奄美群島の名字・今昔』の問い合わせはファクス04・7169・1590(松山哲則さん宛に)。

 かつて松山さんが関わったNHKの「日本人のおなまえっ!」の担当ディレクターは、既に退職しており、当時の事情について確認することはできなかった。また、残念だが、同局広報によると世界自然遺産登録が見込まれるこの夏頃に「奄美群島をテーマに取り上げることは、現時点では考えていない」そうだ。コロナ禍で旅がかなわない今、お気に入りのシマ唄をCDで聴きながら、太平洋、東シナ海に浮かぶ島々への空想旅に著書を開くのも一興だ。
 (高田賢一)