ノヤギ、奄美の内陸部で増加

奄美大島の山中で目撃されたノヤギ(環境省提供)

生態系に悪影響 県、新年度から実態調査へ

 奄美大島の内陸部で、野生化したヤギ(ノヤギ)が増加している。もともとは海岸部やがけなどに生息していたが、徐々に内陸部に広がってきたとみられる。下層植生がノヤギによって食べられ、森の生態系に影響を及ぼす。世界自然遺産登録の推薦地内でも目撃されており、対策が望まれる。

 ノヤギは国際自然保護連合(ⅠUCN)が定めた世界の侵略的外来種ワースト100にも指定されており、食害による希少野生植物を含む植生の破壊によって、土砂崩壊等被害が発生している。食肉用として導入した家畜のヤギが飼育放棄され、野生化した。同島は2008年に5市町村で「ヤギの放し飼い防止等による条例」が施行されている。

 環境省奄美群島国立公園管理事務所によると、島内全域に設置したセンサーカメラによるモニタリング結果では、2014年度から20年度までにノヤギの撮影頻度は約6・6倍に増加。奄美マングースバスターズによる個体や鳴き声、ふんの目撃情報は、大和村や奄美市住用町のスタル俣線、三太郎線付近で多くなっているという。阿部慎太郎所長は「このまま放置してノヤギが増え続けると、世界自然遺産地域にも大きな影響を及ぼす。ぜひ市町村で対策を強化してほしい」と話した。

 駆除は、龍郷町を除く4市町村が各猟友会に依頼している。奄美市ではここ2年は年間50匹ほど駆除。同市環境対策課の平田博行課長は「これまでは主に海岸部やがけで狩猟を行っていたが、今年度は三太郎線付近などの内陸部でも発見されており、駆除していると聞いている。実態調査は県が21年度から鹿児島大に依頼して始まる予定で、その調査結果を受けて今後の方向性を考えたい」と話した。

 県の自然対策課は「海岸部は14年度に沖から船で調査したが、内陸部を調査するのは県としては初めて。ドローンと赤外線カメラを用いて生息数や被害状況を把握していく」と話している。 

 ノヤギは鳥獣保護法の対象で、原則として捕獲できず、駆除するには「有害鳥獣」として事前に知事の許可を得る必要がある。このため、5市町村の政府への働きかけにより2010年には「ノヤギ特区」に選定され、ノヤギを「狩猟鳥獣」に追加し、狩猟期間に自由に捕獲できるようになった。しかし、捕獲までは「狩猟鳥獣」扱いでも生体捕獲後は「獣畜」とみなされ、と畜場を経由せずに食品衛生法に従って食肉として処理・販売することはできないという問題がある。また、殺処分した個体は県の指導により土中に埋めることになっており、食用として活用できない。捕獲自体も難しいが、後処理も難しい問題になっている。