集落支援を考える

「奄美市一集落1ブランド」では、21集落22ブランドを認定している(情報冊子より)

どう生かす「一集落1ブランド」
行政と住民の一体感を

 奄美2世で、立命館大産業社会学部講師の冨澤公子さんの著書『幸福な老いを生きる~長寿と生涯発達を支える奄美の地域力~』には、「奄美の伝統文化と超高齢者の役割」についての記載がある。著書で定義する超高齢者とは85歳以上のお年寄りのこと。伝統文化の例として民俗芸能のシマ唄や八月踊りを挙げる。

 超高齢者と伝統文化。「超高齢者は多様なテンポで踊られる八月踊りの達人。若い世代が島唄や八月踊りを自在にこなす超高齢者の所作や技を真似しながら、伝統文化が引き継がれていく」。敬老会・豊年祭、アラセツ、シバサシなどの地域行事の際、多くのシマ(集落)で見られる光景ではないか。

 冨澤さんはこう記す。「本土では高度成長経済の進展のなかで地域コミュニティは弱体化し、地域の祭りは消え、祭りを司ってきた老人は、経験や技・叡智などを蓄積しながら自らの潜在能力を発揮する場がなくなっている」。奄美のコミュニティではどうか。「超高齢者には求められる役割があり、潜在能力を開花させる人間発達の場がある。シマでは行事や会合の際には、年長者は上座に座らされる。年齢が序列を決めるのである。町長でも例外ではない。このような人格の相互尊重や成果の分かちあいの習慣を持つ、〝個を尊重しあう〟奄美のコミュニティに注目する」。

 地域文化の伝承で見られる超高齢者の役割や存在の大きさ。「大切なシマの公共財」として若い世代からも認識されることが、冨澤さんが表現する「幸福な老い」につながるのだろう。個を尊重するコミュニティは暮らしやすさの根源ではないか。

 広域合併で誕生し、今月20日で15周年を迎えた奄美市にも各シマジマ(それぞれの集落)の地域文化のほか、特性、魅力などを発信する取り組みがある。地域資源を地域の宝として認定する「一集落1ブランド」だ。

 笠利・名瀬・住用の各エリアでの認定数は21集落22ブランドに及ぶ。担当する市民協働推進課は「認定された各集落のブランドを交流人口の拡大(観光客などを呼び込む)、郷土愛の醸成、産業などに活用し、活性化に役立ててほしい」と期待する。ブランド認定された集落は、人口が少ない小規模集落(名瀬エリアでも上・古見・下方地区の農村部にある集落)がほとんど。ブランド認定は、こうした小規模集落が将来にわたって存続するための施策の一つでもある。それには地域文化の伝承でも必要な担い手、人、集落民の存在が前提となる。

 市が進める集落支援は見直しも検討されている。同課は今年度、集落に出向き住民への聞き取りによるアンケート調査を行った。それによると、集落の公民館などにポスターを掲示したり、市のホームページにも掲載し周知を図っている「一集落1ブランド」認定については、「良かった」「うれしい」といった肯定的な意見が8割に達したという。

 地域の宝を掘り起こしてのブランド認定が誇り・シマ自慢になっている一方、中心部から離れるほど各集落には人口減少という現実が横たわる。流出・減少が続くと、小規模集落は将来にわたっての存続が見通せない「限界集落」に陥るかもしれない。アンケートからも共通する課題として「子育て世代がいない(少ない)」が浮かび上がっており、こうした状況を踏まえての集落支援策を同課は思案中だ。他の地域、あるいは島外、都市部などからの移住を働きかけていくためにも「シマの価値、住みやすさを具体的にアピールできるようにしたい」。これが新たな集落支援策の視点だ。

 ただ移住を希望する人には、「不便だからこそ面白い」「人が少ない静かな環境の中でこそ生活したい」などさまざまな価値観がある。移住者を受け入れる集落住民の意思も尊重しなければならない。集落支援に取り組む行政と、その集落に居住し長年住み慣れている住民との意見交換が不可欠だ。

 まちづくりの主役は地域とされている。「それぞれの地域の歴史・風土に培われてきた魅力的な個性を、地域住民自らがもう一度見つめ直し、それを自らの手で生かしながら、その地域にしかない独自で活力あるまちづくりを進めていく」。これが実現することで住民自治によるまちづくりが推進できる。

 広域自治体の奄美市で周辺部にある小規模集落の住民自治(住民主体によるまちづくり・地域づくり)をどのように展開するか。まずは集落住民の代表(各地区の区長=駐在員、嘱託員)と、行政の一体感(パートナーとして協働、協調)の構築を見つめ直したい。

(徳島一蔵)