守るには① 保全への針路深る

国直集落ローカル・ルール周知のための看板が設置された、公民館の前に立つ村上区長とNPO法人TAMASUの中村理事長国直集落ローカル・ルール周知のための看板が設置された、公民館の前に立つ村上区長とNPO法人TAMASUの中村理事長

 

行動のコントロール必要性
「ローカル・ルール」

 「観光客などを受け入れての体験交流事業に取り組んだことで、集落は観光地としての認知度が向上した。それにより多くの観光客が訪れるようになり地域経済の活性化や交流人口の増加が期待される一方、ごみの散乱や騒音、治安の悪化など観光公害が懸念される事態に直面した。観光の舞台は集落であり、観光と暮らしの共存へ集落住民を対象としたアンケートに乗り出すことになった」。大和村国直集落のNPO法人TAMAS(タマス)理事長の中村修さんは語る。住民の意識を探るアンケート実施は2018年12月のこと。やがてそれが共存のための「決まり」へと結びつく。

 ゆったりとした気分に浸れるフクギ並木、アダンやグンバイヒルガオが繁茂し昔ながらの景観が残る海辺、白砂やサンゴといった国直集落が誇る観光資源も、集落の人々が長年にわたって保全してきたからこそ今にある。そんな資源がNPOの情報発信により広く知られるようになり、観光客など集落に出入りする人々が増加。活気と同時に負の部分が表面化した。

 ▽共存へ

 「多くの人が訪れるようになり、群集心理とも言えるような過度な行動などが目に付くようになった。海難事故も発生した。こうした行動のコントロールの必要性を感じた。集落のみなさんが(訪れる人々の行為を)不快に感じては、集落での観光事業は成り立たない。集落の理解・共感がなければ継続できない」。集落独自の「ローカル・ルール」づくりへと動きだすが、共存のヒントを探るため中村さんは、研修としてNPOの職員を沖縄県国頭郡本部町の備瀬集落に派遣した。

 備瀬集落は、国直同様、フクギ並木が人気の観光スポットだ。沖縄を代表する観光施設・美ら海水族館に近いこともあり、多くの観光客が訪れるほか、集落で観光事業を営むⅠターン者も増えている。観光による活況が集落全体を包み込んでいたものの、やがて「外(来訪者)と内(在住者)の軋轢」が生じる。集落の人々の心の拠り所である信仰地に、「インスタ映え」するとして観光客が次々と訪れ、スマホなどで写真撮影する行為が引き金となった。集落民は、観光客の排除とも言える信仰地への立ち入り規制に乗り出した。

 職員の報告などにより中村さんは制定の意義を確信する。「備瀬のような事例(観光客と地元民の対立)を招かないためにも、観光地のオーバーユース(過剰利用)を回避しなければならない。そのための方法としてローカル・ルールにたどり着いたが、制定にあたっては集落のみなさんの同意を前提にした」。TAMASでは住民との話し合いを重ねた。アンケート調査やワークショップ、意向調査によって集落の課題を明確にし、TAMASがリードするのではなく、住民自らが課題解決に向き合うことを優先した。

 ▽みんなで守る

 19年の年末に制定されたローカル・ルールは7項目。「毎月第3日曜日は集落美化の日」「午後10時以降の花火や音響は禁止」「キャンプは区長に届出を」「水上バイクのマリンレジャーは禁止」「集落内は時速20㌔」「飲酒後の遊泳禁止」「海上ではライフジャケット着用」。制定から1年半が経過した。集落の人々、観光客らにはどのように受け止められているのだろうか。

 現在57世帯109人が暮らす集落をまとめる区長に就き今年で10年目という村上恵子さん(67)。心掛けていることがあるという。「人を分け隔てしてはだめ。一部の意見ではなく、みんなの意見に耳を傾ける姿勢によってこそ集落の総意となる。集落のまとまり、住みやすさは訪れる観光客にも伝わる。今はコロナ禍により移動の自粛などから観光交流がストップしている状態だが、国直の場合、まるで家族のように何度も集落を訪れるリピーターが多いのも、滞在によって感じられる居心地の良さがあるのではないか」。

 まとまり、居心地の良さの根底にはローカル・ルールがあるという。まずは住民が率先してルールを守った上で観光客に周知を図る姿勢によって。村上区長は語る。「夏場に多い海辺でのキャンプも区長への届出が必要なことを集落の人が伝えてくれる。集落の人から教えられたとして、こちらに電話が掛かってくる。聞き出すのは名前や連絡先程度。お互いの安全のためであることを理解してもらっている」。中村さんは強調した。「集落のルールは、規制ではなく情報把握のため。決してハードルは高くなく、誰でも守れるルールではないか。住民も観光客もみんなで守ることで、観光資源の保全が図れる。法的な拘束力はないが、ルールを作ったことで新たな観光事業者参入への対応にも役立つ」。

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 ローカル・ルールという国直集落の試み。世界自然遺産となるこの島の在り方にも示唆を与えていないだろうか。「宝の島」を守るために進むべき針路を探る。