作家・梯さん講演会

講演を行った梯さん(円内)と大勢の来場

島尾敏雄生誕100年記念祭
「書き合う夫婦だった」 研究者や評論家の出現期待

 NPO法人島尾敏雄顕彰会(潤井文子理事長)は9日、奄美市名瀬の県立奄美図書館(石塚一哉館長)で島尾敏雄生誕100年記念祭として、作家梯=かけはし=久美子講演会「〈書く・書かれる〉という闘い―島尾敏雄と妻ミホ―」を開いた。遠くは福島県や茨城県などから200人を超す聴衆が集まり、ミホさんを取材した時のエピソードや執筆時の苦労などが語られた。

 開会行事で潤井理事長と石塚館長、奄美市教委の要田憲雄教育長があいさつ。講演に先立ち、奄美小6年の久永晄暖=ひなた=さんと内藤きららさんが島尾敏雄の『東北と奄美の昔ばなし』の一話を朗読した。

 梯さんは熊本出身で、デビュー作『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。ミホさんの写真を見て興味を持ち、著作『海辺の生と死』と『祭り裏』を読んで会いたいと思い、約束なしで2005年9月に初めて奄美を訪れたという。

 その時にミホさんと会う約束が出来て、11月の島尾忌の翌日に面会。ミホさんのインタビュー取材の原稿15枚を雑誌編集者に見せると、「取材を続行して長編を書いてほしいと言われ、ミホさんにも原稿を読んでもらい評伝を書く許可をもらった」と執筆の経緯を明かした。

 何度も奄美に通いミホさんにインタビュー取材を行っていたが、ミホさんの実家の大平家のお墓参りをしたことを話したら、取材中止を言われて評伝をあきらめたことを紹介。ミホさんが07年3月に死去した後にもう一度書きたいと思い、長男の伸三さんの了承を得て奄美市名瀬浦上の島尾家の膨大な遺稿・遺品整理で発見した資料などから『狂うひと「死の棘」の妻・島尾ミホ』を書きあげた。

 ミホさんの「海辺の生と死」の映画化で、主演の満島ひかりさんの演技を称賛。梯さんは満島さんが「ミホさんを演じることで、島を演じている」と話したことに触れ、「島尾敏雄にとっても、ミホさんと島は一体の存在だったのでないか」「あの二人にとって奄美は非常に複雑で意味のある場所だったのだろう」と語った。

 講演の最後に「二人はお互いに書き合う夫婦だったのだろう」とし、「若い人にもっと作品を読んでもらい、島尾敏雄を評論する人に出てきてほしい」とまとめた。