喜界のモズに関する論文発表

喜界島で撮影されたオスのモズ(鳥飼久裕さん撮影)

おくびょうな開拓者たち
国立科学博物館・濱尾さん

 国立科学博物館の動物研究部脊椎動物研究グループ長・濱尾章二さんらのチームはこのほど、喜界島を含む南西諸島のモズに関する論文を発表した。論文によると、南西諸島においてはいわゆる「おくびょうな」性格のモズが、進出のパイオニアとなっていることが明らかになった。一般的には新しい繁殖地に進出する個体は大胆な性格のものが多いとされるが、その通説を覆す結果となった。

 モズは東アジアに分布し、九州本土以北で繁殖する。北方の個体は南方に移動して越冬し、南西諸島では冬季にのみ見られる。しかし、喜界島では2010年代からモズが繁殖するようになり、モズの集団ができている。

 濱尾さんらはモズに近づき、モズが飛び立って逃げる距離を計測した。その結果、本土のモズに比べ、南西諸島のモズはすぐに飛び立って逃げ、長く飛んでいることが分かった。これは、南西諸島のモズがリスク回避的でおくびょうな性格であることを示している。

 一般に、新しく成立した集団の個体は大胆で新奇な物を恐れず、そのことが新たな土地に到達し生き残る上で有利であると考えられてきた。しかし、南西諸島では臆病な性格のモズが集団をつくるパイオニアとなっている。

 その背景には、捕食者のクマネズミの存在があるという。クマネズミは本土では人家周辺にしか見られないが、亜熱帯の南西諸島ではモズが営巣する藪=やぶ=にも多く生息する。南大東島(沖縄県)ではクマネズミがモズの卵・雛を捕食したりモズの巣を改造して自分の巣として用いたりすることが確認されている。そのような環境下で、おくびょうな個体は危険を感じるとすぐに巣を放棄したり作り直したりして捕食を免れ、子を残しやすいという。

 今回の研究は、臆病な者が新しい土地でパイオニアになるという意外な事実を示した。また、モズという同じ種の中でも住む場所や捕食者の存在によって行動が異なることが分かった。

 濱尾さんらは、今後さらに実証的に研究を進めるため、クマネズミによるモズの巣の捕食頻度やモズの営巣場所選択についても明らかにしたいとしている。